最近、「AX(AI Transformation)」という言葉を耳にする機会が増えました。数年前はDX(Digital Transformation)が盛んに語られていましたが、現在はAIを中心とした変革に注目が集まっています。弊社でも、AIを活用した業務変革を支援することがあります。その中には、業務変革よりもAI導入そのものに比重が置かれているケースも見受けられます。AIはあくまで手段であるにもかかわらず、導入が目的にすり替わってしまうのです。その結果、導入費用が膨らんだ割に、期待した効果が得られないこともあります。こうした事例を踏まえ、AIによる業務改革で効果が出ない原因を整理します。
AIによる業務改革で効果が出ない11の原因
① AIを使いこなせない、利用に抵抗を示す層の存在
新しい技術を導入すると、一定の割合で使いこなせない人や、利用に抵抗を示す人が生じます。研修や教育を重ねても、全員が同じように使えるようになるとは限りません。利用を一律に強制しても、形だけの利用に終わったり、かえって業務の負担が増えたりする可能性があります。利用者の特性や業務内容に応じた導入設計が必要です。
② 機密情報を扱う設計ができていない
一般的な情報を扱う業務と異なり、顧客情報、技術情報、経営情報などを扱う場合は、情報の取り扱いに十分な配慮が求められます。利用するAIの仕様や契約、アクセス権限、データの保存・利用方針などを適切に設計できなければ、活用範囲が限定され、期待した効率化が実現しません。設計を誤れば、情報漏洩によって競争力の源泉を失うリスクもあります。
③ 人の複雑な判断や感覚に依存している
トラブル対応や設計変更など、経験に基づく高度な判断が必要な業務は、AIに置き換えることが容易ではありません。ベテランがAIの出力を検証できても、その人が組織に一人しかいなければ、検証作業が新たなボトルネックになります。また、人員配置や品質判定など、判断基準が暗黙知に依存している業務では、AIに何を学習させ、何を基準に判断させるべきかが明確になっていません。
④ 想定よりも狭い工程しか効率化できない
AIが特定の作業を自動化できても、業務全体がそのまま効率化されるわけではありません。途中で人が確認する、部署間の連携で処理が止まる、状況に応じて次の工程を判断するといった作業が残ります。AIの出力を人が理解し、検証する時間も必要です。個々の作業の削減時間を積み上げただけでは、業務全体で得られる効果を過大評価することになります。
⑤ 効率化対象の業務量が小さい
身近な業務や、AIで簡単に効率化できそうな作業から着手すること自体は合理的です。しかし、対象業務の発生頻度や処理時間が小さければ、削減できる時間も限られます。作業単位での改善効果が大きく見えても、組織全体の業務量に占める割合が小さければ、経営成果へのインパクトは限定的です。
⑥ 人工の省力化効果が机上の空論になっている
削減時間をそのまま人件費の削減額に換算するのは危険です。残業時間が減れば残業代の削減につながりますが、所定労働時間内(例えば9-18時で勤務する正社員の方)の作業を一部効率化しても、直ちに人員削減や人件費削減が実現するわけではありません。空いた時間を別の業務に充てるのか、その業務はきちんと文書などで設計されているか、要員配置を見直すのか。効果を実現するための観点が必要です。
⑦ 人の行動特性や暗黙知を見落としている
パーキンソンの法則が示すように、仕事は与えられた時間を満たすように膨らむ傾向があります。AIで作業を効率化しても、仕事の進め方や目標を見直さなければ、空いた時間が別の業務で自然と埋まり、労働時間の削減につながらないことがあります。空いた時間を余裕と感じて緩慢と過ごしてしまうケースもあります。
また、ポランニーのパラドックスが示すように、人は自分が知っていることをすべて言葉で説明できるわけではありません。無駄な作業や自動化できる作業が暗黙知の中に埋もれていれば、改善対象として認識されず、従来のやり方が温存されてしまいます。
⑧ 説明責任を果たせない
AIの出力を業務判断に利用する場合、その結果を適切に検証し、必要に応じて説明できる体制が求められます。AIに依存しすぎると、結果の妥当性を判断できる人材や知識が組織から失われるおそれがあります。また、判断根拠を十分に説明できない場合、顧客への説明や監査、社内承認などの要件を満たせず、そもそもAIを業務に導入できないこともあります。
⑨ 業務手順や業務フローが整備されていない
何をきっかけに、誰が、どのような処理を行い、何をもって完了とするのか。業務の流れが整理されていなければ、AIを組み込む場所や前後の処理との接続が曖昧になります。その状態では、環境変化に応じた修正や、さらなる改善も難しくなります。特定の作業を自動化して一時的な効果を得られても、業務全体の設計が不十分なままでは、効果を持続・拡大できません。
⑩ 根拠となる文書やデータが曖昧
AIが参照する規則や業務マニュアル、分析用データの定義が曖昧だったり、データの粒度が統一されていなかったりすると、AIは適切な根拠に基づいて回答できません。文書が古いまま放置されている、複数の場所に散在している、同じ事項について異なる記述があるといった状態も、回答の不安定さにつながります。AIの性能だけでなく、判断の根拠となる情報を整備・維持する仕組みが必要です。
⑪ 効率化後の業務設計が曖昧で、不安を生じさせる
AIによって業務が効率化されると、従業員は自分の仕事や雇用がどうなるのかという不安を抱くことがあります。こうした不安を完全に解消することは難しいものの、効率化した後に誰が何を担い、空いた時間をどのような業務に充てるのかが見えなければ、従業員の協力を得にくくなります。技術の導入だけでなく、導入後の役割分担や働き方まで設計する必要があります。
おわりに
今回挙げた11項目を、すべて解消しなければ業務変革が実現できないわけではありません。しかし、いくつかの要因が障壁となり、期待した効果が得られていない企業もあるのではないでしょうか。本記事では、「AIを導入すれば業務変革が実現する」という考え方に警鐘を鳴らすべく、効果が出ない原因を整理しました。現在進めているAI導入や業務変革の取り組みについても、今回の11項目に照らし合わせ、見落としている課題がないかを確認してみてはいかがでしょうか。





