製造業において、生産計画はどのような役割を担っているのでしょうか。生産計画というと、製品をいつ、どれだけ作るかを決めるもの、というイメージがあるかもしれません。しかし、実際には生産日程を決めるだけでは不十分です。何を、どのような手順で、どの設備や人員を使って作るのか。さらに、需要や生産能力の変化を踏まえ、製造工程全体をどう整合させるのかまで考える必要があります。生産計画は、工場の活動を方向づける重要な仕組みです。今回は具体的な立案手法に入る前に、その役割や基本的な考え方を整理します。
そもそもなぜ営業と工場は対立するのか
例えば、営業部門が販売計画を立てたものの、実際の受注が想定を下回ったとします。工場側からすれば、計画に基づいて生産した製品が売れず、在庫が積み上がってしまいます。一方、営業側は「顧客が求める製品がない」「必要なときに商品を用意できない」と不満を抱くかもしれません。反対に、受注が急増すれば、営業は増産を求め、工場は生産能力や材料の調達期間を理由に難色を示します。こうした対立は、単なる部門間のコミュニケーション不足なのでしょうか。その背景には、販売と生産を一体として捉え、企業全体として何を優先すべきかを判断する仕組みの不足があります。営業は販売機会を、工場は生産効率や安定稼働を重視します。それぞれの立場では合理的な判断でも、両者の計画が整合していなければ、欠品や過剰在庫、納期遅延などの問題が生じます。必要なのは、営業か工場のどちらか一方の都合を優先することではなく、需要と生産能力を踏まえ、会社全体として実行可能な生産の在り方を決めることです。その接点となるのが生産計画です。
生産計画は日程表ではない
生産計画を理解するうえで、まず押さえておきたいのは、計画と予測の違いです。将来の需要や生産条件を予測することは重要ですが、予測しただけでは実際の活動は始まりません。その予測を踏まえ、何をどのように実行するのかを決める必要があります。生産計画も同様です。需要の見通しや生産能力、調達条件などを踏まえ、どの製品を、どのような手順で、いつまでに、どの資源を使って作るのかを決定します。工場の生産活動全体の在り方を定めるものです。ここで、生産計画と生産スケジュールを区別しておきましょう。生産計画が生産活動全体を対象とするのに対し、生産スケジュールは、特定の設備や作業者、工程などに着目し、具体的な実行日程を定めるものです。個々の工程の日程を精緻に組んでも、そもそもの生産数量が需要に合っていなかったり、必要な設備や人員が確保されていなかったりすれば、全体として望ましい生産にはなりません。
進捗管理だけで、生産をコントロールできるのか
製造現場では、受注や製造指示に基づいて生産や調達を進め、その後は進捗状況を確認しながら、遅れがあれば関係部門に対応を促す、といった管理(=成り行き型管理)が行われることがあります。例えば、材料の納入が遅れれば調達先に督促する。生産が予定より遅れていれば、現場に状況を確認する。納期が厳しくなれば、作業順序を変更したり、追加の手配を行ったりして対応する。こうした活動は、需要や生産条件が変化する以上、現場の柔軟な対応も必要です。しかし、生産が始まってからの進捗確認や督促、個別調整に依存しすぎると、問題の発生を未然に防ぐことが難しくなります。ある製品の遅れを取り戻すために生産順序を変更すれば、別の製品の生産や材料の手配、後続工程にも影響が及ぶことがあります。個別の問題を解消しているつもりでも、その対応が別の問題を引き起こし、工場全体で調整が繰り返されることになりかねません。
また、需要が伸びている間は、こうした問題が表面化しにくいこともあります。しかし、市場の成長が鈍化し、従来のように生産すれば売れるとは限らなくなると、過剰在庫や生産効率の低下といった問題が顕在化しやすくなります。こうした問題を減らすためには、個々の注文や工程の進捗を追うだけでなく、需要、生産能力、調達、生産日程、在庫などを事前に関連づけ、製造工程全体を見通しておく必要があります。もちろん、事前に計画を立てれば、すべての変化を予測できるわけではありません。計画変更をなくすことではなく、全体の整合性を確保したうえで、変更が生じた際の影響を把握し、適切に対応できる状態をつくることが肝要です。
生産計画で決める3つのこと
生産計画では、大きく分けて三つの事項を決めます。
①生産手順
製品をどのような手順で作るのかを決めます。使用する材料や部品、利用する工場・設備、外注先などを明確にし、必要に応じて代替となる生産方法も検討します。
②生産日程
各工程をいつ実行し、どのような順序と期間で生産を進めるのかを決めます。工程ごとの所要時間や納期を踏まえ、製造工程全体の日程を調整します。
③生産リソースの割り当て
設備、人員、材料など、製品を作るために必要な資源をどこに、どれだけ割り当てるのかを決めます。生産能力に制約がある場合は、日程や生産方法の見直しも必要になります。
この3つは相互に関係しています。例えば、設備の能力が不足していれば生産日程を変更する必要があり、日程を変更すれば材料の手配や人員の配置にも影響します。そのため、各項目を個別に決めるのではなく、相互の関係を踏まえて調整することが重要です。
生産計画が管理する7つの対象
生産計画では、主に次の7つの対象を考慮します。
1)生産数量
何を、どれだけ作るのか。需要や販売計画と整合させ、欠品や過剰在庫を防ぐための基本となる数字です。
2)納期
いつまでに製品を完成させるのか。顧客や営業の要求と、実際の製造・調達に必要な期間を踏まえて調整します。
3)在庫
どれだけの在庫を持つのか。欠品に備える在庫だけでなく、工程間の仕掛品や滞留在庫なども考慮し、必要な水準を検討します。
4)生産リソース
設備、人員、材料などをどう配分するのか。利用可能な資源には限りがあるため、能力の制約を踏まえて実行可能な計画を立てます。
5)製造原価
製品を作るためにどれだけのコストが発生するのか。材料費や外注費、労務費、経費などを考慮し、生産方法やロットなどによる違いも把握します。
6)利益
どのような生産の組み合わせが、企業全体の成果につながるのか。個別製品の採算だけでなく、生産能力の制約や製品間の関係も踏まえて判断します。
7)資金
生産活動に必要な資金をどの程度確保する必要があるのか。材料の購入や設備への投資、在庫の保有など、生産活動に伴う資金需要も考慮します。
これらは独立した項目ではありません。例えば、生産ロットを大きくすれば段取りの回数を減らせる可能性がある一方、在庫が増えることもあります。納期を短縮しようとすれば、生産順序や資源配分の見直しが必要になる場合もあります。生産計画の難しさは、こうした複数の要素を調整しながら、実行可能な生産の在り方を決めなければならない点にあります。
おわりに
生産計画は、進捗を確認して問題が起きるたびに対応するだけでは、問題の連鎖や非効率を防ぎきれないことがあります。必要なのは、事前に生産活動全体を設計し、計画と実績の差を次の改善につなげることです。生産計画を工場の一部門だけの仕事として捉えるのではなく、営業や経営も含めて企業全体で考える。その視点が、安定した生産活動を実現するための出発点になります。
次回の第2回では、今回整理した考え方を踏まえ、生産計画の手法と実際に立案する際のポイントを取り上げます。全体の生産量からどう日々の製品ごとの生産数量まで落とすのか。そして需要と生産能力をどう整合させるか、数量や日程、資源配分をどう決めるかなど、より実務に即した内容を掘り下げていきます。





