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2026-9-18 業務改革 バリューチェーン改革

経営としてのサプライチェーンマネジメント

企業経営を語るとき、経営戦略であったり、日本のお家芸ともいえる現場改善について語られることは多いです。一方で、企業活動を上流から下流までつなげ、全体を俯瞰して捉えるという視点は、これまで十分に重視されてこなかったように思います。ここでいうサプライチェーンとは、製造業における調達・生産・物流だけの話ではありません。企業が顧客に価値を届けるまでの一連の流れ、その中でモノや情報が受け渡され、付加価値が積み上がっていく価値提供の鎖を指しています。近年は、海外からの調達、労働力の多様化や不足、市場環境の変化などによって、その鎖の一部が失われるリスクが大きくなっています。原材料が調達できない、重要な取引先が倒産する、生産拠点が機能しなくなる。こうした問題が起きれば、企業活動そのものが止まる可能性があります。それでもサプライチェーンは、調達、生産、物流など、それぞれの現場業務の話として扱われることが少なくありません。しかし、製造業であってもサービス業であっても、顧客に付加価値を届ける一連の流れは、その企業の競争力そのものです。そのため、サプライチェーンは現場だけの問題ではなく、経営の問題として捉える必要があります。特に中堅企業以上になると、組織が大きくなるにつれて部署が細分化され、それぞれの役割分担も明確になります。専門性が高まる一方で、部門と部門の間にあるつながりは見えにくくなります。組織が大きくなるほど、全体を俯瞰してサプライチェーンを捉える意味は大きくなります。

現代のサプライチェーンの位置づけ

20年以上前のSCMは、調達と生産の効率化によるコストダウンが主眼でした。調達する材料の単価を下げる、生産工程を効率化するなど、製造原価をいかに下げるかが中心です。それぞれの部署が自分たちの役割を果たし、部門間を調整する機能はまだ十分ではありませんでした。当時は経済成長が続いていたため、ある程度の無駄な在庫や非効率が存在していても、それを上回る成長の果実を得ることができました。その後、経済成長が鈍化し、企業がグローバルに展開するようになると、企業全体の効率化がより重要になりました。調達、生産、物流、販売といった各工程を本社が統括し、国をまたいだロジスティクスを構築する必要が出てきました。日本を中心に海外へ展開し、縦割りの組織を全体統制する考え方が強くなった時期です。さらに直近10年ほどでは、事業ポートフォリオの見直しやM&Aを通じた事業再編が重要なテーマになっています。どこで作るのか、どこから調達するのかという話だけではなく、そもそもどの事業を自社で担うのか、どの機能を外部に出すのか、どの事業に経営資源を投入するのかといった経営判断とSCMがつながるようになっています。市場環境が変化する中で、部門の集約や統廃合を行い、過去の前例や先入観にとらわれずに付加価値の出し方そのものを見直す。バリューチェーンのどの部分を自社が担うのかを設計することも、SCMの重要なテーマになっています。SCMは、現場の効率化を考えるための機能から、企業そのものの構造を考えるための機能へと、その位置づけが変わってきています。

サプライチェーンを経営へ

SCMは、企業の売上、利益、在庫、資産、キャッシュといった、財務諸表に表れる数字の多くを生み出す根源です。どの商品を、どの顧客に、どれだけ販売するのか。何をどこから調達し、どこで生産し、どれだけ在庫を持つのか。どのような物流網を構築するのか。こうした一つひとつの判断が、売上や利益だけでなく、棚卸資産や固定資産、運転資本、キャッシュフローにもつながっています。そのためSCM改革を考えるとき、今やっていることを、より速く、より安く、より正確にするという発想だけでは足りません。需要予測の精度を上げる。在庫を減らす。製造を効率化する。物流ルートを最適化する。これらはもちろん有用な取り組みです。ただ、その前に「そもそもこの業務は必要なのか」「顧客に価値を届けるために必要なのか」「経営目標の達成に寄与しているのか」と問い直すことも必要です。AIを導入する、DXを進めるといった取り組みも同じです。技術を導入すること自体が目的になると、何を実現したかったのかが曖昧になります。新しい技術を使えばSCMが自動的によくなるわけでもありません。

SCMが現場改善に留まってしまう背景には、構造的な要因もあります。経営陣がSCMを単なるオペレーション組織として捉え、SCMが経営にどう影響するのかを十分に理解していないケースがあります。一方で、SCM担当者自身も、自分たちの仕事を経営の文脈で語れていないことがあります。日々の調整やトラブル対応に追われ、自分たちの活動が利益やキャッシュ、資産効率にどうつながっているのかを考える機会が少ないからです。その結果、目的が曖昧なままSCM改革が始まり、各部門がそれぞれの解釈で動くことになります。営業は納期必達、製造は稼働率向上、物流は積載率向上。このように個別のKPIを見ると、それぞれ正しいことをやっているように見えても、全体として最適な状態になっているとは限りません。KPIについても同じです。成果を可視化するためにKPIを設定したはずが、KPIを数多く設定すること自体が目的になり、個々のKPIを改善することに注力してしまうことがあります。

もう一つ注意したいのが、他社事例やベストプラクティスへの依存です。他社がどのような取り組みをしているのかを知ることは有用です。ただし、それをそのまま自社に適用すればうまくいくとは限りません。何をベストとするかは企業によって異なります。コストを最優先する会社もあれば、品質、納期、柔軟性を重視する会社もあります。市場環境や顧客、製品特性、企業規模、組織構造によっても、適切なSCMの姿は変わります。事例を見るときに参考にしたいのは、その会社の取り組みそのものよりも、「なぜこのような切り口で課題を捉えたのか」という部分です。自社では考えていなかった視点は何か。どのような要素を考慮しているのか。逆に、自社では何が抜けているのか。他社事例は答えを持ってくるためではなく、自社の課題を考えるための材料として使う方が、SCM改革には向いています。

経営管理と企業活動

経営管理とは、事業を効率的に運営し、企業としての目的を達成するために、経営資源の配分・調整・統括を行うことです。企業は事業ごとに資本を分配・投資し、企業活動を行います。その結果として利益が生まれ、その利益を含めた資本が再び新たな事業活動へ配分・投資されていきます。企業活動に投下するモノ・カネと、企業活動を運営するためのヒトをどのように配置し、運営するか。これが経営管理の一つの役割です。製造業では、生産管理、販売管理、在庫管理、人事労務管理、財務管理など、業務ごとに細分化されて運営されています。経営管理では、予算管理などの仕組みを使い、それぞれの部門が適切に業務を運営できているかを確認します。しかし、経営に必要なのは各部門の最適化だけではありません。全体として整合性の取れた意思決定を行う必要があります。その観点から見ると、サプライチェーンは事業活動の中心に位置し、経営の根幹をなすプロセスといえます。

経営者が重視する指標も、時代とともに変化してきました。売上高を重視する経営から、バブル崩壊後には利益が重視されるようになり、キャッシュフロー計算書の開示義務化などを背景にキャッシュフローへの関心が高まりました。さらに伊藤レポート以降、ROA、ROE、ROICなど、資産や資本をいかに効率的に使うかという視点も強くなっています。現在では、経営管理におけるFP&A、製造現場と経営数字をつなぐS&OP、現業を支えるSCMを、それぞれ別々のものとして捉えるのではなく、有機的につなげていくことが求められています。SCMを起点として、現場の活動と経営数字をつなげて考える。そうしたSCMドリブンな経営管理の考え方が、これからさらに重要になるでしょう。

終わりに

製造業や流通業、サービス業などの支援にコンサルタントとして入ると、サプライチェーンが現場がこなすべき作業として捉えられていることに気づきます。調達は調達、生産は生産、物流は物流。組織として分けて考えること自体は必要ですが、顧客に価値が届くまでの一連の流れを考えると、それぞれは切り離されたものではありません。モノや情報が流れていく中で、そこに少しずつ付加価値が加わり、最後に顧客へ届く。そのつながりを意識すると、SCMを全体で捉える意味が見えてきます。どこを入口にして、どのような流れをつくり、最後の出口でどのような状態になっていればよいのか。その流れを、戦略や経営管理の観点から設計する必要があります。企業が大きくなるにつれて、組織は細分化され、専門性も高まります。その一方で、極端な縦割りによって、かえって全体のつながりが見えにくくなることがあります。まずは自社のサプライチェーンを、入口から出口までじっくりと自分の足で辿ってみてはいかがでしょうか。

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