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2026-8-28 戦略立案 経営計画

競争戦略  競争の中で、いかに儲かる構造をつくるか

これまで当ブログでは、経営戦略についてさまざまなテーマを扱ってきました。ただし、これまで扱ってきたのは、戦略を考える際の考え方や、企業活動をどのように捉えるかといった、比較的上位概念の話が中心でした。今回は、もう一歩具体的に踏み込みます。テーマは競争戦略です。自社の経営計画を立案する際には、自社は今後何をするのかだけではなく、競争相手との関係の中で、どのようなポジションを築くのかを考える必要があります。どれだけ努力して商品を改善し、営業を強化し、業務を効率化しても、そもそも競争が激しく利益を確保しにくい市場であれば、高い収益性を維持することは容易ではありません。一方で、競争相手が少なく、参入が難しく、顧客やサプライヤーからの圧力も弱い市場であれば、企業は比較的高い利益を確保しやすくなります。つまり、競争戦略を考えるうえでは、何を頑張るかだけではなく、どのような競争構造の中で戦うのかが重要になります。今回は、この考え方をSCP理論、戦略グループ、ファイブフォースという3つの視点から見ていきます。

SCP理論 企業の収益性は競争の構造に左右される

競争戦略を語るとき、マイケル・ポーターの『競争の戦略』は非常に有名です。この競争戦略の考え方を理解するうえで重要なのが、産業組織論におけるSCP理論です。

SCPとは、

Structure(市場構造)
→ Conduct(企業行動)
→ Performance(業績)

の頭文字を取ったものです。

簡単にいえば、市場や業界の構造が異なれば、そこで企業が行動した結果として得られる業績も異なるという考え方です。例えば、ある企業が営業努力を重ね、商品を改善し、コスト削減にも取り組んでいたとしても、競合企業が無数に存在し、顧客が簡単に他社へ乗り換えられ、参入障壁も低い市場であれば、利益を確保することは難しくなります。逆に、競合が少なく、新規参入も難しく、顧客から見ても代替手段が少ない市場であれば、企業は高い収益性を確保しやすくなります。つまり、企業が頑張れば儲かるだけではなく、どのような構造の市場で頑張っているのかが利益を左右するということです。実際、業界によって企業の収益性には違いがあります。例えば、株式会社アイ・エヌ情報センターが集計した2026年4月時点の上場企業ROEランキングを見ると、上位にはサービス業が多く含まれています。

2026年4月集計 上場企業ROEランキング|アイ・エヌ情報センター

もちろん、サービス業だから儲かると単純化することはできません。ただし、一般論として、物理的な設備や在庫などの資産を比較的少なくして事業を展開できるビジネスでは、資本効率を高めやすいという構造上の特徴があります。成熟市場においても、必ずしも市場が成長していることだけが重要なのではありません。どのような資産を持ち、どのようなコスト構造で、どのように競争するのか。こうした構造そのものが、企業の収益性を左右します。

完全競争と完全独占 競争が激しいほど儲けにくい

では、そもそも競争が激しいとはどういう状態なのでしょうか。経済学には、競争状態を考えるための極端な概念として完全競争と完全独占があります。完全競争では、一般に次のような条件が想定されます。

・市場に無数の企業が存在し、個々の企業が市場価格を左右できない
・新規参入や撤退の障壁がない
・各企業が提供する製品・サービスが同質で、差別化されていない

この状態では、企業は価格を自由に決めることができません。ある企業が高い利益を上げれば、新たな企業が参入してきます。そして、製品やサービスが同質であれば、顧客は価格の安い企業を選びやすくなります。結果として、競争によって利益率は押し下げられていきます。

完全競争の事例
例えば、太陽光発電の販売・施工事業などは、地域や事業者によって事情は異なるものの、競争が激しくなりやすい事業の一例です。使用する太陽光パネルやパワーコンディショナはメーカー製品であり、一定水準以上の施工については顧客から見た違いが分かりにくい場合があります。さらに、参入障壁が比較的低い地域では事業者が増えやすく、一括見積もりなどによって価格を簡単に比較できるようになると、価格競争に陥りやすくなります。このような市場では、他社より少し安くするという競争を続けるだけでは、利益を確保しにくくなります。

完全独占の事例
一方、完全競争の対極にあるのが完全独占です。完全独占とは、市場に1社しか供給者が存在せず、新規参入も極めて難しいため、その企業が価格や供給量に大きな影響力を持つ状態です。現実には完全独占はほとんどありませんが、極めて高い参入障壁によって、実質的に独占に近いポジションを築いている企業は存在します。代表例が、オランダの半導体製造装置メーカーASMLです。ASMLは、最先端半導体の製造に必要となるEUV(極端紫外線)露光装置を世界で唯一供給しています。EUV露光装置は、光源、光学系、超高精度の位置合わせなど、極めて高度な技術を必要とします。さらに、長年の研究開発や特許、専門企業とのサプライチェーン、半導体メーカーとの技術的な関係なども参入障壁となっています。そのため、資金を投入すれば簡単に競争できる市場ではありません。ASMLは、こうした複数の参入障壁によって競争相手の参入を困難にし、実質的な独占に近いポジションを築いています。

業界の中にも競争のグループがある

ここまでの議論では、業界という単位で競争を考えてきました。しかし、実際の企業間競争は、業界全体だけを見ても十分に理解できません。同じ業界の中にも、競争の仕方が異なる企業群が存在するからです。これを考える際に有用なのが、戦略グループという考え方です。

同じ産業に属していても、

・製品ラインナップ
・顧客層
・価格帯
・進出地域
・販売チャネル
・費用構造
・垂直統合の程度

などが似ている企業と、まったく異なる企業があります。

例えばハンバーガー業界を考えてみます。マクドナルドのような大規模チェーンは、安く・早く・手軽にという価値を大量の顧客に提供し、大量調達や標準化、高い店舗回転率によって収益を確保します。一方、モスバーガーは、より商品へのこだわりや注文後の調理などを重視し、同じハンバーガー市場でも異なる価値を提供しています。さらに、シェイクシャックのようなプレミアム型のブランドでは、商品そのものだけでなく、店舗空間やブランド体験を含めて高い価格帯で提供します。いずれもハンバーガーを販売する企業ですが、競争の仕方は同じではありません。つまり、同じ業界の中にも複数の競争の場が存在します。ここで着目するべきは、自社がどの戦略グループに属しているのかということです。そして、場合によっては、そのグループから抜け出すこと自体が競争戦略になります。

競争するグループを変える例としてワークマンを取り上げますかつてのワークマンは、職人向けの作業服・作業用品を中心とする専門店という位置づけでした。つまり、プロ向け/低価格/実用性重視という作業服市場の競争グループに属していたわけです。しかし、建設投資や職人市場の先行きなどを考えると、従来の市場だけに依存して成長を続けることには限界がありました。そこでワークマンは、自社が持っていた高機能でありながら低価格という強みを、従来とは異なる顧客層へ展開していきます。その象徴がWORKMAN Plusです。製品の機能性という強みを活かしながら、店舗のデザインや売場づくりを変え、アウトドアやスポーツ、日常用途の顧客にも受け入れられるブランドへと展開しました。単に新商品を作ったということではなく、同じ業界の中で、自社が戦う競争グループそのものを変えたという点が重要です。プロ向け作業服という競争環境から、高機能・低価格のカジュアルウェアという競争環境へ移動する。これによって、従来とは異なる顧客を獲得し、新たな市場を形成することが可能になります。

ファイブフォース――競争環境を5つの力から見る

こうした競争構造を体系的に分析するための代表的なフレームワークが、ポーターの「ファイブフォース」です。ファイブフォースでは、産業の収益性を左右する競争圧力を、5つの力に分けて考えます。5つのフォースについては詳細は別記事や書籍で解説が豊富になりますので参照ください。要素だけ挙げます。

① 新規参入企業の脅威
② 既存企業間の競争
③ 買い手の交渉力
④ 売り手の交渉力
⑤ 代替品の脅威

ファイブフォースは現在の静的な関係で終わらせない
ファイブフォースを使うと、自社を取り巻く競争環境を整理できます。ただし、経営計画に組み込むのであれば、現在の状態を分析するだけでは十分ではありません。競争環境が今後どう変化するかを考えることが肝要です。例えば、新しい技術が登場したことで参入障壁が下がるかもしれません。大手企業が新規参入してくるかもしれません。顧客が別のサービスへ移行するかもしれません。サプライヤーが統合され、売り手の交渉力が強くなるかもしれません。あるいは、自社自身が新しいサービスを提供することで、既存の競争構造を変えられるかもしれません。したがって、ファイブフォースは現状の静的な分析のためだけに使うのではなく、「このまま何もしなかったら、競争構造はどう変化するか」「自社が施策を実行したら、5つの力はどう変化するか」という動的なシミュレーションに使うことができます。

経営計画に競争戦略を組み込む

ここまでの内容を、経営計画に落とし込むときのポイントを整理します。

1.まず、自社がどのような競争状態にいるのかを考える
自社の市場には、どれくらいの競合が存在するのか。新規参入は容易なのか。顧客は簡単に他社へ乗り換えられるのか。代替品は存在するのか。サプライヤーの交渉力は強いのか。
まずは自社が完全競争と完全独占のどちらに近いのかを考えてみます。

2.似通った企業群から、どのように差別化するかを考える
次に、業界全体ではなく、業界内の戦略グループを見ます。自社と似た企業は誰なのか/その企業群と何が違うのか/そもそも、別のグループに移動できないかを考えます。競合企業に勝つだけではなく、競争相手そのものを変えるという発想が重要です。

3.ファイブフォースを静的ではなく、動的に使う
現在の競争環境を分析するだけではなく、3年後、5年後に5つの力がどう変化するかを考えます。そのうえで、

・競争が激しくなる前に何をするのか
・参入障壁をどう高めるのか
・顧客の乗り換えコストをどう高めるのか
・代替品に置き換えられない価値をどう作るのか

といった施策を経営計画に組み込んでいきます。

4.どの範囲・階層で競争環境を捉えるのかを考える
最後に重要なのが、どこまでを自社の競争環境とするのかという問題です。例えば、ある製品だけを取り出して分析するのか、事業全体を見るのか、あるいは異なる業界の代替サービスまで含めて考えるのかによって、競争環境の見え方は大きく変わります。

同じ企業でも、製品市場/事業/業界/顧客の課題など、どの階層で競争を捉えるかによって、競合企業も代替品も変わります。だからこそ、競争戦略を考えるときには、最初から競合はA社とB社と決めつけるのではなく、自社は何をめぐって競争しているのかを定義することが重要です。

競争戦略とは競争に勝つ方法だけではない

競争戦略という言葉からは、競合企業にどう勝つかというイメージを持ちやすいかもしれません。しかし、競争戦略の本質は、それだけではありません。どのような競争構造の中で事業を行うのかそして、その競争構造を、自社にとって有利なものへ変えられないかを考え抜くことが必要です。競争が激しい市場で、競合企業と同じ顧客を奪い合い、同じ製品を販売し、同じ価格で競争する。この状態で営業力や業務効率を高めることも重要ですが、それだけでは競争そのものから抜け出すことはできません。一方で、顧客を変える。提供価値を変える。価格帯を変える。販売チャネルを変える。参入障壁を高める。代替されにくい仕組みをつくる。場合によっては、戦う市場そのものを変える。こうした取り組みによって、自社を完全競争から少しずつ遠ざけることができます。経営計画を作る際には、売上をいくら増やすか/利益率を何%にするかといった目標だけではなく、その利益を、どのような競争構造の中で生み出すのかまで考える。それが、競争戦略を経営計画に組み込むということではないでしょうか。

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