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2026-5-29 戦略 データ分析と統計

データは「平均」より「塊」で見ろ ― クラスター分析の実務活用

統計学の分析手法に、「多変量解析」という領域のクラスター分析があります。名前だけ聞くと難解に感じますが、企業活動においては非常に実務的で、使いどころの多い分析手法です。算出式を理解する必要はありません。重要なのは、似た特徴を持つものをグループ化し、対策を変えるという考え方です。企業経営では、限られた人・時間・予算をどこに投下するかが常に問われます。クラスター分析は、その資源配分の意思決定を高度化するための道具と言えます。

■まずクラスター分析とはなにか

例えば、100人の営業マンがいる会社を考えます。当然、売上にはばらつきがあります。高い成果を出す人もいれば、伸び悩む人もいます。ここで、「売上が高い・低い」という結果だけではなく、どのような特徴を持つ人が、どのような成果を出しているのかを見ようとするのがクラスター分析です。

例えば営業マンには、以下のような違いがあります。

・新規営業が得意か、既存深耕が得意か
・訪問件数が多いか少ないか
・単価重視か件数重視か
・クロージングが強いか弱いか
・製造業向けが得意か、流通業向けが得意か

こうした特徴をもとに、似た傾向を持つ人たちをグループ化します。これがクラスター分析です。重要なのは、平均だけを見るのではなく、塊で見ることです。企業活動では、全体平均で対策を考えると、実態を見誤ることがあります。実際には、異なるタイプの人や顧客や製品が混在しているからです。クラスター分析は、その混在を整理し、どこに、どんな対策を打つべきかを見えやすくします。

■クラスター分析の目的

目的は、塊に応じた効果的な打ち手を発見することです。例えば、営業力強化のために全営業マンへ同じ研修を実施するとします。しかし実際には、営業マンごとに課題は異なります。

・商談数は多いが成約率が低い人
・成約率は高いが案件数が少ない人
・単価は高いがリピート率が低い人

これらを一律に扱ってしまうと、研修の効果は薄くなります。一方で、クラスター分析によって成約率が低い営業マン群を抽出できれば、そのグループに対してクロージング研修を重点実施できます。逆に、案件数不足のグループには、見込み客開拓の支援を行う方が効果的かもしれません。つまり、誰にでも同じ対策ではなく、グループごとに対策を変えることができるようになります。これは投資対効果の向上に直結します。もちろん、グループ分けを細かくし過ぎると、今度は管理が複雑になり、運用負荷が高まります。そのため実務では、分析精度と運用可能性のバランスが重要になります。

■クラスター分析のやり方

では、具体的にどのようにグループ化するのでしょうか。クラスター分析の基本的な考え方は、「データ同士の距離」を測ることです。ここでいう距離とは、物理的な距離ではありません。「特徴がどれくらい似ているか」を数値化したものです。例えば、ある2つの対象があったとします。売上規模が近い、利益率も近い、成長率も近い。この場合、両者は「距離が近い」と判断されます。逆に、売上規模が大きく異なる、利益率も大きく違う、成長性も異なるのであれば、「距離が遠い」と判断されます。

つまりクラスター分析では、多数のデータを比較しながら、「どのデータ同士が近いのか」「どのデータ同士が遠いのか」を整理していきます。イメージとしては、似た特徴を持つものが自然と近くに集まり、特徴が異なるものほど離れて配置される感覚です。そして、まず距離が最も近いもの同士を結び付けます。次に、そのグループに近いものをさらに結び付けていきます。これを繰り返すことで、少しずつ大きなグループが形成されていきます。

例えば、「AとBは非常に近い」→「そこへCも比較的近い」→「Dはやや離れている」→「Eは全体からかなり特徴が異なる」というように、距離に応じて段階的に整理されていきます。この過程を可視化したものが、デンドログラム(樹形図)です。デンドログラムでは、似ているもの同士ほど早い段階で結び付けられます。逆に、特徴が大きく異なるものは、かなり後になってから結合されます。そのため、図を見ることで、

・どの対象同士が特に似ているのか
・どこで大きな特徴の違いが発生しているのか
・全体として何種類くらいの塊があるのか

を把握できるようになります。クラスター分析は「無理やり分類する」のではなく、データ同士の近さをもとに、「自然な塊」を見つけようとする点です。そのため、分析者の感覚だけでは気付きにくい構造が見えることがあります。例えば、一見バラバラに見えていた対象群が、実際には3〜4種類の特徴パターンに集約されていた、ということも少なくありません。クラスター分析は、その「見えにくい構造」を整理し、意思決定に活用するための分析手法と言えます。

■クラスター分析を使う企業活動の場面

クラスター分析は、営業だけの話ではありません。企業活動の様々な場面で活用できます。

例えば顧客分析。

顧客を売上規模だけで見るのではなく、利益率、リピート率、問い合わせ頻度、値引き傾向などを含めて分析すると、高売上だが利益が薄い顧客群や、売上は小さいが安定収益を生む顧客群などが見えてきます。例えば、売上規模と利益率の2軸でグラフを描いてグルーピングすると、「売上は大きいが利益率が低い顧客群」が見つかることがあります。さらに分析を進めると、顧客側の事業が低迷しており、価格競争圧力が高まっているケースもあります。逆に、現時点の売上規模は小さいものの、成長性が高く、将来的に重要顧客化する可能性を持つ層が見えることもあります。つまり、現在の売上規模だけではなく、利益性や将来性も踏まえて営業戦略や価格戦略を考えられたりします。

例えば人事領域。

人事では、社員を一律に管理しているように見えても、実際には特徴の異なる社員群が混在しています。例えば、残業時間、評価、異動履歴、勤続年数、離職率などを組み合わせて分析すると、

・評価は高いが、長時間労働によって離職リスクが高い層
・成果は安定しているが、昇進停滞によってモチベーションが低下している層
・若手で成長意欲は高いが、十分な業務機会を得られていない層

などが見えてくることがあります。単純に「若手の離職率が高い」と見るだけでは、適切な対策は打ちにくいですが、クラスター分析によって背景要因の異なるグループに分けることで、対策を変えられるようになります。例えば、高負荷層には業務分散やマネジメント改善、成長停滞層には難易度の高い業務アサインや育成強化など、グループごとに異なる施策を検討できます。また、高パフォーマンス人材の特徴分析にも活用できます。例えば、特定の異動経験や案件経験を持つ社員群に高成果人材が多いことが分かれば、人材配置や育成方針の見直しにも繋がります。

経営では、全体平均で見るだけでは見えないことが多くあります。むしろ重要なのは、どの塊に、どの特徴があるかです。クラスター分析は、その塊を発見し、限られた経営資源をどこへ重点投入するかを考えるための、有効な武器の1つです。高度な計算は必要ありません。まずはエクセルで整理してみるだけでも示唆が得られますので実践してみてください。

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