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2026-6-5 戦略 戦略の思考

目の前の問題に振り回されないためのシステム思考入門

私たちは日々、様々な出来事に直面しています。売上が下がった。離職率が上がった。業務が忙しくなった。物価が上昇した。こうした出来事に直面すると、その場の現象だけを見て対応策を考えがちです。しかし、目の前で起きていることは、より大きな構造の結果として現れている場合が少なくありません。例えば売上減少という現象が起きたときも、営業担当者の問題なのか、商品競争力の問題なのか、市場構造の変化なのかによって打つべき手は全く異なります。重要なのは、目に見える出来事だけを見るのではなく、その背後で何が起きているのかを理解することです。そこで役立つのがシステム思考です。システム思考とは、物事を個別の事象として捉えるのではなく、全体の構造や相互作用として理解しようとする考え方です。不確実性が高くなり、社会や企業活動が複雑になるほど、この考え方の価値は高まります。目の前の問題に振り回されるのではなく、その問題を生み出している仕組みそのものを理解することで、より本質的な解決策を考えられるようになるからです。

■システムとは何か

システムとは、ある目的を達成するために相互に関係しながら機能している一連の要素の集合です。システムは大きく3つの要素で構成されます。

  1. 要素
  2. 要素同士のつながり
  3. 機能または目的


例えば自動車を考えてみましょう。エンジン、タイヤ、ハンドルといった部品が「要素」です。それらが機械的に連結されていることが「つながり」です。そして人や荷物を移動させることが「目的」です。これらが揃って初めて自動車というシステムになります。一方で、倉庫にタイヤやエンジンが無造作に積まれているだけではシステムとは呼べません。部品は存在していても、それらが相互に機能していないためです。

〇システムではないもの
システムと単なる寄せ集めは異なります。例えばスーパーの買い物かごの中に入った商品は、複数の要素の集まりではありますが、互いに機能的なつながりを持っていません。牛乳と洗剤と野菜が様々にカゴに入っていても、それらが協調して何かを実現しているわけではありません。このような単なる集合体はシステムとは呼びません。

■システムの特徴

システム思考を身につけると、個別の出来事ではなく、それらを生み出している構造に注目できるようになります。また、要素同士の関係性を理解することで、将来どのような変化が起きるかを予測しやすくなります。重要なのは、システムの挙動は構成要素だけを見ても理解できないということです。

例えば渋滞です。道路、車、信号機という要素だけを見ても、渋滞がなぜ発生するのかは分かりません。しかし、

  • ドライバーが車間距離を調整する
  • 前方車両の減速が後続車へ伝わる
  • 交通量が一定以上になる


といった関係性を見ると、渋滞が自然発生する理由が見えてきます。個々のドライバーは渋滞を望んでいません。それでも全体としては渋滞が発生します。これはシステム全体の挙動が、個人の意図の単純な合算ではないことを示しています。

■システムの目的は挙動に現れる

システムの目的は必ずしも明文化されているとは限りません。むしろ本当の目的は、そのシステムが実際にどのように動いているかを観察することで見えてきます。例えば企業が「顧客第一」を掲げていても、

  • 短期利益ばかりを重視する
  • クレーム対応に投資しない
  • 営業数字だけで評価する

のであれば、そのシステムの実質的な目的は顧客満足ではなく短期利益の最大化かもしれません。システムは言葉よりも行動に本音が現れます。

■システムは目的によって大きく変わる

システムを構成する要素を入れ替えても、つながりや目的が同じであれば挙動は大きく変わりません。反対に、目的が変わるとシステム全体は大きく変化します。例えば企業で、「利益最大化」を最優先していた組織が、「顧客生涯価値の最大化」を重視するようになるとします。すると評価制度、商品開発、営業活動、投資判断などが次々と変化していきます。システムを決定づける最も重要な要素は、実は目的なのです。

■システムの挙動を理解する鍵 ― ストックとフロー

システムを理解する上で重要な考え方がストックとフローです。ストックとはシステムの中で変化するフローの履歴の現時点の状態です。フローとはストックを増減させる流れです。例えば銀行預金で考えると、預金残高=ストック、給与収入=流入フロー、日常の支出=流出フローになります。現在の預金残高は、過去の仕事で得た給与収入と家賃や食費などの日常的な支出の積み重ねによって形成されています。

■システムの種類

A 調整システム
調整システムとは、目標に向けて一定の状態を維持しようとする仕組みです。目標と現状の差を埋めようとする働きとも言えます。例えば室温を一定に保つエアコンです。部屋が暑くなると冷房が強く働きます。反対に冷えすぎると冷房は弱まります。例えば27℃という設定した温度=目標を境にして調整を図ります。この仕組みによって室温は一定範囲に保たれます。こうした調整ループがシステムの安定性を支えています。

B 増殖システム
増殖システムとは、自らに課せられた変化を増進させる仕組みです。ストックが増えるほど、インプットのフローが更に増えやすくなります。代表例は複利運用です。投資元本が増えるほど受け取る利息も増えます。利息が増えるとさらに元本が増え、次の利息も大きくなります。この循環が繰り返されることで成長速度は加速していきます。SNSも同じ構造です。フォロワーが増えるほど投稿が拡散されやすくなり、拡散されるほど新たなフォロワーが増えます。増殖システムは、良い方向にも悪い方向にも働きます。成長を加速させることもあれば、赤字や品質問題、SNS炎上を連鎖的に拡大させることもあります。

■最後に

目の前で起きている出来事は、多くの場合システムが生み出した結果です。そのため、現象だけを見て対症療法を繰り返しても、本質的な改善にはつながりません。重要なのは、要素を見る/要素同士のつながりを見る/システムの目的を見ることです。システム思考は、問題の背後にある構造を理解し、より本質的な解決策を考えるための強力な武器になります。日常の出来事を見た時に、その出来事だけをみて対処を決めるのではなく、一度立ち止まってシステムを考えてみてはいかがでしょうか。

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