事業はどこで戦うか

新規事業に限らずの話になりますが、事業で戦う場所の話をします。事業で戦う場所を間違えると、最適な場所であればうまく戦えたはずなのに、同じ商品/サービスであっても無残な結果を生むことになったりします。そのため、次に挙げる6つの要素を検証し、有利な場所で戦いを行う必要があります。特に新規事業の場合は顧客や収益基盤が無い中での立ち上げになりますので、このテーマは死活問題になります。

①需要があるか
②需要の大きさはどの程度か
③得意か
④好きか
⑤強みがあるか
⑥競合が強い/弱いか

①需要があるか
これは商売の最も基本的な事柄であると思っております。人々が欲しがるものが売れる、これは事業をあれこれ検討していると忘れられがちですが、古今東西の原理原則です。それは問題を解決したい、なのかジョブを片付けたい、なのか、ニーズを満たしたいなのかなど様々あります。何となく感覚的に欲しいなのか、悩ましい課題を根本的に解決したいのか需要の軽重はあれど、まず基本として押さえる項目です。6つの中で有無を言わさず最も重要な要素です。

②需要の大きさはどの程度か
①と関連しますが、欲しいと思う感情がどれぐらい深いのか、そしてどれぐらいの人数が存在するのか。①が認識されたとしても、欲しい感情はあるもそれはあってもいいけどなくてもよい、程度のものだったり、欲しい人の人数が少なすぎるという状況があります。ただ、物凄いニッチな領域でトップを狙い、類似の領域に染み出していく作戦は非常に有望ですので、必ずしも人数が少なすぎるからダメ、ということではありません。ただ、個人の欲しい思いは深ければ深いほど有望です。

③得意か
これは自社が持っている技術力が高かったり、経験を積んでいて得意であると言えるかどうか、の要素です。自社の歴史の中で積み上げてきて生き残ってきた商品/サービスのノウハウは、得意なものに分類されます。よくあるのは、好きではないけども、嫌々ながら/何も考えずに取引の中で取組んできて段々と得意になってきた技術や商品、というパターン。得意になってきたから好きになった、もあると思いますが、得意でも好きではない、という場合もあります。この得意と強みがあるか、はやや重複していますが、得意は絶対的な尺度で、強みがあるかが相対的な尺度です。

④好きか
自社が取引や商品/サービスの提供をこなす上で、楽しい/好きと思うかどうか、です。標準のパッケージ商品が好きでそれだけ売りまくる、というのが好きの場合もあれば、完全オーダーメイドのサービスを提供するのが好きという企業も。もしくはリスクを取った情熱が求められる新規事業が好き、という企業もいます。これは企業の生い立ち、や内部にいる人々の文化によって異なります。商社のようなパワフルでウェットな営業が好きな企業もあれば銀行のような緻密さやリスクを取らないやり方が好きという企業もあります。

⑤強みがあるか
③で少し触れましたが、この要素は相対的なものです。自社が得意と思っていても、周辺企業も得意であれば強みとは言えません。周辺企業が弱くて自分が得意、これが強みです。この周りが弱いということを認識する分析力と、自社が得意であるという自省力の両方がないと見極められないため、特定や言語化が難しいです。技術力がある、ブランドがある、長年の取引がある、というのは一般的によく言われがちな強みですが、本当かどうかは検証や深堀が必要です。ビジネスの文脈でいうと、利益に直結するものとなります。

⑥競合が強い/弱いか
周りの競合が絶対的な尺度で強いか弱いか、を指しています。相対的なものは⑤の強みになります。これはどこで戦うかを検証する際に漏れがちな要素で、是非考慮してほしいことです。例えば、あるスポーツが盛んな国でコーチ業を行っている方はその国で競合のコーチが物凄い教え方が上手で、埋もれてしまう。しかしそのスポーツが盛んではない海外の国でコーチ業をやったところ周りのコーチの教育水準が十分でなく、突き抜けて評価が高くなる、といったケースです。全く同じことをしていても、周りの環境が違うだけで驚くほど成果が異なります。

以上、事業をどこで戦うかを決める上での6つの要素を扱ってきました。要素の意味合いは分かったけど、じゃあどれを優先するのか?となってくると思います。弊社の考えでは、まず上述したように①需要があるか、が最も大事と考えます。そして⑤強みがあるか、⑥競合が強い/弱いかを選びます。強みがある/競合が弱い、というのはいわゆるビジネスで競合に対して優位性を持つ差別化に直結するからです。自社が絶対的に得意かどうかよりも、周辺と比べて相対的に強みがあるか、競合が絶対的に弱いかどうかの方が市場で勝てる見込みは高いと考えます。ビジネスは文脈の中で勝敗が決まるため、環境が非常に大事です。

また、なぜ②需要の大きさはどの程度か、③得意か、④好きか、を劣後するのか。事業の始めでは②需要の大きさはどの程度か、を意識しすぎると市場の大きさが十分でないからやめておこう、と商売がまず始められないので、除きます。新規事業の場合だと、需要の大きさが測れないことも多く、誰も正確に予測できないという面もあります。③得意か④好きかは、自社が得意で好きかどうかは顧客がその事業の商品/サービスを魅力的か、欲しがるかといった観点には全く無意味だからです。だからといって不要ではなく、③得意か、で培ってきた技術や専門性が⑤強みがあるか、に繋がる話にもなりますし、④好きか、は何がなんでもやってやる、という情熱=事業をやり抜く、ということに繋がります。

今回は、事業をどの場所で戦うかについて取り上げてみました。最も検討が漏れがちなのが⑥競合が強い/弱いか、です。もし検討をしたことが無ければ少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。自社がどれだけ頑張っても成果が出ないのでは、競合が強すぎる/多く存在することで勝てないだけかもしれません。