今回は、中堅企業におけるマネジメント(経営管理)の建て直し事例をご紹介します。企業規模や業界が異なっても、経営管理上の課題には共通する構造があります。類似の事例を知ることで、自社のマネジメントを見直す際のヒントになれば幸いです。なお、実際の企業事例をベースにしていますが、そのままの内容ではなく、一部抽象化・改変したうえでお伝えします。今回は、弊社が多くご相談を受ける「戦略」「経営管理」「業務改革」に関わるテーマから3つの事例を取り上げます。
① データ分析の再構築(IT企業)
〇背景
この企業では、事業成長に伴い各部門が独自にシステムを導入し、データを取得・活用していました。しかし、部門ごとにデータの定義や粒度が異なっており、同じ顧客や売上を見ていても解釈が揃わない状況となっていました。例えば、営業部門、カスタマーサクセス部門、経営管理部門、ビジネス開発部門が、それぞれ異なる観点で顧客や売上を定義しており、組織横断で議論を行おうとしても会話が噛み合いません。本来であれば、全社で同じ事実を見ながら議論し、意思決定を行うべきところが、前提となるデータの定義が統一されていなかったため、目指す姿や課題認識について共通理解を持つことが難しくなっていました。一方で、それでも売上や利益は成長していたため、課題が顕在化しにくかったことも背景としてありました。
〇建て直し策
まず着手したのは、「どのような分析を行いたいのか」「その分析結果をどのような行動につなげたいのか」を整理することでした。データ設計は取得できる情報から考えるのではなく、最終的な活用目的から逆算して考えることが重要です。顧客分析については、
地域 業種 部門 ライセンス数 販売チャネル 契約形態
といった切り口を候補として整理し、各部門へヒアリングを実施しました。
例えば、
- ビジネス開発部門はライセンス数で計画を立てたい
- 財務部門は顧客の規模、契約人数で管理したい
- 開発部門は受託開発売上とサブスクリプション売上を区別したい
など、求める切り口が異なります。すべての要望を満たそうとすると設計が複雑化するため、利用頻度が高く、実際のアクションにつながりやすい顧客情報の整理を優先しました。また、部門ごとに個別調整を行うだけでなく、複数部門合同での討議を実施し、最終的にはCXOレベルで承認するプロセスを組み込みました。さらに、既存分析との連続性・データ入力負荷の増加・現場からの問い合わせ対応なども考慮し、FAQ整備や移行期間の設定を行うことで、現場の実践ハードルを下げました。結果として、各部門が同じデータを基準に会話できる状態が整い、全社横断での意思決定の質が向上しました。
② KPI設計の見直し(卸売業)
〇背景
この企業では、管理を重視する文化が強く、長年にわたり多くのKPIが追加され続けていました。特に経理出身の役員が管理指標を重視していたこともあり、管理資料やKPIは年々増加していきました。その結果、
- KPIが多すぎる
- 管理資料が膨大
- 作成工数が高い
という状態になり、作る側も見る側も疲弊していました。会議では役員が特に重視する数値だけが確認され、それ以外の指標はほとんど活用されません。現場担当者も当初は疑問を感じていたものの、「昔から作っているから」という理由で集計を続ける状態になっていました。さらに、接客件数の定義・粗利の定義なども曖昧であり、同じ指標でも部署によって解釈が異なっていました。経営層は資産効率を重視していた一方で、現場は売上や利益に直結する指標しか見ておらず、経営と現場の間で見ている景色が異なっていたことも課題でした。
〇建て直し策
まず、各KPIについてなぜ設定されたのか・誰が使うのか・どのような意思決定につながるのかを確認しました。その結果、目的が失われた指標・現在の事業環境に適さなくなった指標が多数存在していることが判明しました。そこで、KPIをゼロベースで棚卸しし、優先順位を再整理しました。また、定義が曖昧になっていた項目については、取得タイミング・集計ルール・製品分類などを明確化し、共通認識を形成しました。
さらに、ダッシュボードや管理資料についても見直しを実施しました。従来は情報が詰め込まれ過ぎており、何を見るべきか分かりにくい状態でしたが、重要度に応じて表示スペースや配置を再設計し、「見るべき指標が自然と目に入る」構成へ変更しました。結果として、経営層の意思決定がしやすくなっただけでなく、集計側の負荷も大幅に軽減され、現場からも好意的な評価を得ることができました。
③ 原価計算の見直し(製造業)
〇背景
この企業では、製品企画時の原価見積や工場改善活動とコストの関係が不明瞭になっていました。そのため、
- 原価低減施策が本当に効果を出しているのか
- 内製と外注のどちらが有利なのか
- どの製品を伸ばすべきか
- どの製品から撤退すべきか
といった経営判断に自信を持てない状況でした。特に課題となっていたのは、間接部門の費用配賦です。生産技術、生産管理、工程管理などの費用配賦が過去の慣習に基づいて行われており、現在の事業実態と整合しているかが不明でした。また、本来は製品ごとに直接計上できる費用も一括配賦されており、単品原価の精度を下げる要因となっていました。
〇建て直し策
まず、単品原価がどのようなロジックで積み上がっているのかを可視化しました。そのうえで、直接計上できる部品/副材料・工程ごとのコストについては可能な限り直課する方向へ見直しました。また、間接部門の配賦基準についても再検証を実施しました。例えば、品質保証部門の費用については、出荷検査工数割合で配賦していたものの、実際には苦情処理件数や成績表作成件数の影響が大きかったため、より実態に近い基準へ見直しました。重要なのは、一般的に正しい配賦方法を採用することではなく、自社の事業実態を最も適切に表現できる基準を選択することです。
こうした見直しを通じて原価計算の精度が向上した結果、製品企画時の原価見積、内作/外作判断、製品別収益性評価、工場間比較などの信頼性が高まりました。また、現場が感じている感覚と数字上の評価の乖離も小さくなり、改善活動と経営判断がつながりやすい状態を実現することができました。
最後に
データ分析、KPI設計、原価計算の領域では曖昧さが残ると(組織の規模が大きいほど)日々の意思決定の質に直結します。管理のための管理に陥るのではなく、どのような意思決定を支援するための仕組みなのかという原点から見直すことが重要です。一度改めて自社の仕組を見直してみるのもよいかもしれません。次回も、マネジメント(経営管理)の建て直し事例の続きをご紹介したいと思います。





