最近では上場企業の課題を知るために幅広い企業の中期経営計画を読むことがあります。その中で財務上の目標としてよく掲げられているのがROIC(ロイック)です。体感では半数以上の上場企業で目標として掲げています。財務指標として10年以上前の時代からよくみかけるROEやROAと何が違うのか。そもそも売上高や営業利益の指標ではダメなのか。今回は、(前回ブログでも取り上げた)事業ポートフォリオを決める上で役立つROICという財務指標に絞って述べていきたいと思います。
〇ROICとはなにか
ビジネスを行うには元手が必要です。屋台のラーメン屋を始めようとするとき、最初に屋台の車や調理器具、食器、椅子などを購入する必要があります。その購入資金は自己資金なのか銀行から借りるのかはありますが、とにかく最初に元手となる資金が必要です。身一つで始められるサービス業であっても、作業スペースやPCなどの道具は最初に必ず必要です(金額は小さく済みますが)。ラーメン屋の話に戻りますと、日々の商売でラーメン屋を営んでいると、売上から麺やスープ、具材などの費用を引いた利益が最も気になります。ここ最近儲かっているのだろうか、と。儲けられないとおカネが余らないし頑張ろう、という発想です。
しかし、ふと考えてみると、最初に購入した屋台の車や調理器具、食器、椅子などを購入した際にお金を要しているわけです。これらを日々の商売で累計で回収できているか、と元手の回収まで思いを馳せることになります。この元手に対してどれだけ儲けたか、という概念こそROICのテーマです。ROICとは、元手となる投下資本に対する利益の割合を示すものです。どれだけ儲けたかという利益の絶対額ではなく、効率的に稼げたかを測る指標です。同じ利益であっても、少ない投下資本で達成できた方が効率的な経営ができていることになります。
〇なぜ今ROICが注目されているのか
戦後の高度経済成長期においては、日本の人口が右肩上がりに増えていました。人口ボーナス期と言われる時期です。加えて、まだテレビや洗濯機、エアコンなどが行き渡っておらず、生活の質を上げることに直結するそれらを買い求める個人が大勢いました。結果的に経済が爆発的に成長している時代でした。そのような時代では、企業が伸びるのは当たり前で、売上や他社との競争による市場シェアを目標にしていればよかったのです。利益は売上に伴って結果として残っていた、という状況でした。
その後、バブル崩壊とともに経済は停滞します。縮小した市場の中で企業間の競争が激しくなり、売上さえ伸ばしていれば利益が増えるというわけにはいかなくなりました。売上が大きく伸びない中で利益をどう残すか、という発想で、営業利益といった利益額を指標としました。また、効率的に利益を生み出しているかどうかを測るために、利益の「率」も管理されることとなりました。
次の時代では、日本の資本取引のグローバル化が進み、日本企業にも外国人投資家が参入してくるようになりました。外国人投資家は企業に対してより多くのリターンを求めます。欧米企業よりも相対的に資本効率の低かった日本企業に対して、外国人投資家からの要求が厳しくなりました。今まで売上/利益の基準で良しとされていた思想から資本を如何に活用出来ているか、という考えに転換させられることになったのです。そこで用いられる指標が、ROE(株主資本でどれだけ儲けたか)、ROA(総資産でどれだけ儲けたか)です。
近年、日本の人口が減少してGDPの成長率も鈍化していく中で成熟社会に突入しています。成熟社会に突入すると、単一な商品では消費者が満足せず、多様なニーズにもとづく製品が生まれます。このような状況の場合、アジアや欧米といった地域に進出して成長している市場を狙ったり、多様なニーズに応えるために事業の多角化を図ったりM&Aで企業買収を積極的に行う企業が増えてきました。こうなると限られた経営資源をいかに有効活用するかが日本企業の課題となってきました。投資や撤退する事業や市場を管理する、いわゆる事業ポートフォリオ管理です。会社全体の資産効率の観点(=ROEやROA)から、事業や市場ごとの管理が必要になってきました。ここで登場するのがROICです。ROEやROAと比べて、事業や市場ごとに管理するのに適した指標です。グローバル化や多角化を進めている企業にとっては、ROICを用いた経営管理が必要になってきています。尚、ROEは株主資本に対するリターン、ROAは総資産に対するリターン、ROICは事業への投下資本に対するリターンの違いがあります。
〇ROICを計算する
実際にROICを計算してみましょう。事業毎に計算できるものではありますが、イメージを湧かせるため、全社の損益計算書と貸借対照表を用いて計算してみましょう。
ROIC(投下資本利益率) = 税引き後営業利益 / 投下資本
とまずは表すことができます。
分母の投下資本は、2つの考え方で算出することができます。
①有利子負債+自己資本 → どうやって調達したのか、の観点で算出
➁運転資本(売上債権+棚卸資産-仕入債務)+固定資産 → 何に使っているのか、の観点で算出
どちらの考え方でも概念上は同じ金額になります。
分子の税引き後営業利益は、一般的な損益計算書には存在しません。なぜ税引き後の営業利益を用いるのか。ROICで測定するのは元手の資金をどれだけ稼いだか、なので資金の出し手からすると自分達で出した資金で最終的にはどれだけのリターンが得られたのか、に関心があります。法人税などの税金費用を除いた金額が資金の出し手の最終取り分になります。財務構成(借入か自己資本か)の影響を除いて、事業そのものの収益力を見るためです。そのため税引き後の営業利益を重視することになります。
ROICそのものの全上場企業の平均を公式統計で一律に出しているケースは少ないですが、近い概念であるROEについては、EDINET DBが全上場37773社を集計しています。ここでは、平均7.65%、中央値7.83%となっています。ROICは通常、ROEより低く算出されます(自己資本より投下資本の方が基本的には大きく分母が大きくなるため)。そうすると日本の上場企業全体のROICは、おおむね5-8%程度というのが実態に近いと思われます。
日本企業のROICは低いと言われていますがそれはなぜなのか。理由としては、以下が挙げられます。
・現預金を大量に保有(コロナ禍やリーマンショックの経験からリスクに敏感で過剰にため込み)
・過剰な設備
・低収益事業を抱え続ける
・株の持ち合い文化
・撤退が苦手
・株主より雇用安定を歴史的に重視
ROICの基本のキ、いかがでしたでしょうか。なぜROICが重視されてきたのか、そしてどのように計算するのかがご理解頂けたと思います。自社でもまずはROICを計算してみましょう。





