DX白書2023 進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション

今回は、少し古いですが2023年2月に出されたDX白書2023に着目します。DX白書2021が初の刊行で、2023版は続編です。主に日本企業におけるDXの状況(日米企業のアンケート回答による比較、企業インタビュー含む)や課題、対策をまとめた独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発刊する調査報告書です。IPAは、日本の経済産業省所管の国の政策実施機関であり、IT社会の発展と情報処理技術の推進を目的としています。

引用元: DX白書2023 (ipa.go.jp)

2023年時点で日本企業のDXの実態はどのようなものか、を紐解いていきたいと思います。全てを取り上げるのではなく、弊社が注目する箇所を厳選して取り上げます。全407Pの内、第1部総論1-38Pから抜粋。

回答企業は日本企業n=543、米国企業はn=386(参照:P37,38)

①産業別俯瞰図 P6

産業別のDXの取組割合を基に各産業を3群に分類。第1産業群が20%未満、第2産業群が20%以上30%未満、第3産業群が30%以上となっています。これを見ると、電子/数値データやPCを用いた業務が多くを占める第3次産業群は元々DXにフィットする業種と考えられ、比較的進みやすい印象です。例えば情報通信、金融/保険業など。一方で、物理的な業務が多くを占める第1次産業群はDXが適用できる余地が少ないと考えられ、進んでいないない印象です。例えば農林漁業、運輸、飲食、医療など。意外なのは第3次産業群に属するインフラ系の「電気ガス水道」の産業です。どちらかというと大規模な組織でかつ公的な業務のため、DXは進みづらいと思われますがDX取組割合が30%以上に分類されます。大規模組織であるがゆえにDXで効率化できる余地が多く取組みが進んだのでしょうか。

②DXの取組内容と成果 P14

DXの取組み領域×成果を日米で比較したものです。まず気が付くのは「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」で日米で成果が出ていると回答が多かった部分です。これは最も着手が容易でありかつ成果が出やすいのが理由として考えられます。一方で、「新規製品・サービスの創出」「顧客起点によるビジネスモデルの根本的な変革」では米国に比べ日本で成果が出ていると回答した企業は少数に留まります。ここはDXがトランスフォーメーションではなく、ITシステムの延長の位置づけ、つまり業務の効率化、に留まっている企業が多いのではないでしょうか。

③DX推進のための企業文化・風土の状況(現在) P25

DX推進に必要な企業文化が自社で十分かどうかを尋ねた結果になります。日本では、「企業の目指すことのビジョンや方向性が明確で社員に周知されている」「個人の事情に合わせた柔軟な働き方ができる」の項目が十分であると回答した企業が多いです。一方で米国は全ての項目で十分であると回答する割合が40%を越えており日本との差が大きくあります。特に「社内の風通しの良さ/情報共有」、「高いスキルが報酬に反映」、「最先端の仕事ができる」項目は差が大きいです。この辺りは雇用の流動性の低さやメンバーシップ型の雇用で固定的な業務や役割分担が不明確な点が差を生み出しているのかもしれません。

④データ利活用による「売上増加」効果 P31

データを利活用することによる適用分野と売上増加の効果がったかを尋ねた結果です。適用分野は接客サービス、営業・マーケティング、コールセンター・問い合わせ、製品・サービスの開発、製造工程/製造設備、ロジスティクス、サプライチェーンの7分野です。これは一目瞭然で、日本はどの分野においても米国に比べて売上増加の効果を創出できていないと回答した企業が多いことがわかります。原因としてはデータ活用の基盤(データの整備、DB、運用など)が基本的に整っておらず、活用まで至れていない点が仮説として挙げられます。そもそも成果を測定しない企業が5割近くいることからも、データがそもそも揃っていないケースが考えられるからです。

全体的にはDX推進がまだまだ進んでいない状況にあることが資料からは読み取れました。
・DX取組み割合が20%未満の産業群(農林漁業、運輸、郵便、宿泊、飲食、医療、福祉)がある
・DXの取組み内容がデジタルへの置き換え/業務効率化に留まる
・DX推進を後押しする社内文化風土になっていない
・売上増加に至るまでデータ利活用が進んでいない