経理で大仰なDXを開始する前に、まずはデジタル化を進めて効果を出していこう、というのが今回の話です。DXはトランスフォーメーションだからデジタル化するだけではNGじゃないの?と思われたかもしれません。DXの活動自体はその通りなのですが、経理でいえば、デジタル化でも十分効果を出せるのです。具体的に効果を出せるデジタル化の対象の経理業務を語る前に、それによる効果を確認します。
1.時間短縮 現金、紙、印鑑が無くなって処理時間が速くなり業務時間が短縮 →業務時間の低減
2.費用削減 アナログ処理特有の経費が削減 →印刷代、書類保管、廃棄代、印紙、郵便代の削減
3.品質向上 入力や転記間違い、検証ミス、チェック回数が減少し、品質が向上 → 業務時間の低減
主として業務時間の低減を図れます。品質向上は、ミスによる後戻りや検証で数字などを睨めっこする手間が無くなることにより結果的に業務時間が低減することに繋がります。数字が間違っていないか、で心をすり減らすことが減る、というのも副次的効果として挙げられるかもしれません。そしてアナログ処理特有の実物を使った費用の削減も見逃せません。例えば印刷代も、紙だけでなくプリンタやインク代の削減にも繋がります。シュレッダー器や裁断した紙の廃棄の手間なども細かく言うと挙げられます。
さて、ここから経理でデジタル化を進めることが出来る業務、及び資料を紹介していきます。
■廃止
①会計伝票の廃止
まずデジタル化を進めるというよりかは廃止の話です。仕訳入力のための原票として作成される会計伝票は、入金伝票、出金伝票、振替伝票の3種類があります。これらの伝票について取引が正しい仕訳となっているかを複数人で検証します。検証された伝票をもとにPCに仕訳入力します。これらは、現金取引をやめてキャッシュレスにしてしまえば、そもそも入出金伝票は不要となります。また、会計システムに取引ごとに仕分けパターンを設定しておけば正しい仕訳を自動的に生成してくれるので、振替伝票も不要になります。請求書などの証憑書類をもとに会計システムに直接入力するだけになります。会計伝票はデジタル化では無く廃止することが望ましいです。
キャッシュレス化は、まず社員の立替経費を現金で精算しないということです。小口現金で都度精算するのではなく月1回にまとめて立替経費精算書で申請してもらうようにします。立替経費が大きくなってしまう場合は、限度額を設定した上で、法人契約のクレジットカードを利用してもらうのが有効です。カード精算にすれば、請求は会社宛になり利用明細データをそのまま会計処理に利用することもできます。また現金払いしている公共料金や事務用品の購入代金、新聞の購読料、切手や印紙代があれば口座振替にするか請求書を発行してもらい振込での支払いに変えていきます。
■デジタル化
①会計帳簿
ここからはデジタル化です。2022年1月から電子帳簿保存法が改正されて、税務署の承認なしで会計帳簿を電子データで保存することができるようになりました。会計システムのデータを保存してあれば、伝票や帳簿の印刷は不要になったのです。社内で紙の帳簿を見返すことは税務調査のときぐらいで管理コストがかかり労力の割にたまにしか使われないものであればそのような帳簿書類はデジタル化してしまうのが得策です。
②管理帳票
財務報告や経営管理資料は、帳簿と同じように電帳法で会計システム内での電子保存が認められています。そのため紙での社内保管も見直しの対象になります。社内の管理資料は紙ではなくPDFデータで配布します。経理がExcelで加工した資料は、紙に印刷して配布するよりもExcel形式で共有サーバーに置いておき、必要なときに取り出せる環境として提供したほうが利用価値が向上します。
③預金管理
取引のある金融機関とは、普通預金をはじめ当座預金等の口座を持つことになります。加えて、複数の銀行ごとに預金口座の数が多くなるとそれに比例して管理が煩雑になっていきます。紙の通帳で運用していると、記帳で現地の銀行まで行くのも手間ですし、会計システムに仕訳入力するのも手間です。まず最初に、使っていない口座を整理し、取引のない支店の口座も解約します。そして決済用口座を集約することで資金繰りの管理の手間を軽減します。そのために基本的にはネットバンキングを使用します。銀行への往復時間や待ち時間が節約できます。振込手数料などもATMよりも安く済みます。ネットバンキングの預金明細データを連携することで、毎月仕訳入力していた手間が大きく軽減されます。9割以上の取引は自動仕分けで取込可能です。
④手形管理
受け取った手形は、現金と同じ価値のため、紛失や盗難があってはならず、期日まで金庫で厳重に管理します。また手形は金額が大きいため、小口現金に比べて神経を使います。記載事項に間違いが無いかのチェックにも時間を要します。受取人、振出人、期日など形式や金額、印紙に不備がないかの確認が必要です。それらをひとつづつ確認し、手形帳を付けて期日や残高の管理を行います。この紙の手形管理の煩わしさを大幅に軽減するのが、電子記録債権=でんさいネットです。電子的にやりとりすることで、形式不備などのチェックが不要となり、紛失盗難リスクも無くなります。印紙の貼付けも不要のため、コスト削減になります。取引データはそのまま会計システムに仕訳データとして取り込めます。紙の手形は2026年を目途に廃止する方針を政府が出しています。既にでんさいに切り替えている企業も多くなっていると思います。
⑤税務申告手続き
国税庁から提供されているe-Tax(web版)の使い勝手が向上し、税務申告をデジタル化しやすい環境が整ってきています。法人税、消費税、法人住民税、法人事業税をそれぞれ電子データで提出できるようになっています。これは申告後の納税も電子でできるようになるため、わざわざ金融機関に納付手続きで足を運ぶ必要がありません。(電子証明書のICカードが必要ですが、税理士に代理送信を依頼している場合は不要です)また、源泉所得税は納付書を用いている場合もあるかと思いますが、電子証明書がなくても電子申告→電子納税が可能となります。
さて、経理業務で具体的にデジタル化を進めたほうがよい業務や資料が明らかになりました。DXのまずは第一段階として、経理業務をデジタル化することをおすすめします。これだけでもかなり業務の改善が進むと思います。
※なお、請求書や領収書などをPDFで受け取る「電子取引」も電子帳簿保存法の保存対象となっており、保存要件(検索性や改ざん防止)に注意が必要です。ただし、現在の主な会計ソフトやクラウド経費精算ツールを使用していれば、実務上の要件は十分にカバーできます。