2024年版ものづくり白書を読む

今回は、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成しているものづくり白書2024年版(今年で24回目)を扱っていきたいと思います。

https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2024/pdf/gaiyo.pdf

ものづくり白書は、「ものづくり基盤技術振興基本法」第8条に基づく法定白書で、政府が毎年国会に報告する年次報告書です。この白書の目的は、ものづくり基盤技術の振興に関して政府が講じた施策を国会に報告することです。今年の白書は、36頁で構成されております。情報量が多いため、特に気になった3頁のみを抜粋して取り上げていきたいと思います。

■経営・組織の仕組み化を図るCX(コーポレート・トランスフォーメーション) 2P

日系大手製造業の海外売上比率は20年間で急増し、過半を海外で稼ぐ構造に。しかし、事業規模が大きく、事業や地域が多角化するほど収益性が低下する傾向。これは、本国からのガバナンスがない連邦経営になっており、企業グループ全体を上手くマネジメントできていないことが影響している可能性がある、と書かれています。事業や地域が分散すると、カバーできる範囲がどうしても限られてくるため、収益性が低くなることは容易に想像できます。しかし、資料の右の図を見ると、日本は事業/地域を分散させると次第に収益性が悪くなるのに対して、米国はそこまで比例していません。ですので、事業/地域の分散と収益性の関係性は薄い、と考えます。ものづくり白書の言及通り、ガバナンスに着目してみましょう。本社と現地、という関係で見ると、一体での経営で評価するときの視点は、本社の統制管理と現地の自主性のバランスになります。言い換えると現地の独自性・自立性を尊重するか、本社の色に染めるべきか、となります。このバランスが欠けて本社が統制管理を強め過ぎる圧迫経営か、現地に丸投げお任せの放任経営になるかが生じている可能性があります。これは日本と海外といったマクロの話だけでなく、数人のチームのミクロのマネジメントでも同様だと思います。いずれにせよ、日本の製造業はマネジメントが課題のようです。

■DXによる製造機能の全体最適と事業機会の拡大 ①現状認識 4P

製造業者におけるDXは、個別工程の改善が多い、という内容です。製造機能の全体最適が為されていない、事業機会の拡大を目指すDXは更に少ないという状況です。これはまず企業の規模が大きくなると、縦割りの部署が多くなって部署内で完結する目標や取組みになることが挙げられます。逆に言うと、個別の改善には無類の強さを発揮する、と言えるかもしれません。昔の日本の製造業のお家芸だったカイゼン。製造現場の5S徹底、稼働時間を伸ばす、ムダな運搬を無くす、治具/工具の工夫、QC活動etc しかし、複数の部門(製造と物流、購買と在庫など)が絡む内容は縦割りの関係で中々前に進まないと言えます。弊社のコンサルティングでも、部門を跨ぐ改善や変革は合意を取る人数が多くなって難しくなったり、お互いの目標がトレードオフになってしまい妥結点が見いだせない、などが起こったりします。また最近ではボトムアップの考えを尊重するあまりか、トップダウンでの全体最適の強めの指示が無く現場任せになってしまい、横ぐし活動を嫌う各部署が個別最適に留まってしまう、という仮説も考えられます。「事業機会の拡大」を目指すDXの取組みが少ないというのは、外の世界の異物を取り入れて上手く混ぜる/真似をする、が得意な日本人は民族全体としては新しい事業を生み出す、というのは不得意、なのが想定されます。(但しアニメ/漫画などでは独創的な日本人は少数ながらいると思いますが)

■製造業における投資の動向 17P

無形固定資産への投資が活発な企業ほど営業利益率が高く、そうでない企業は利益率が低い、という内容。これは私も色々な企業を観察する中で薄々思っていましたが、データで出ると興味深い内容です。無形固定資産への投資とは、資料の下に記載の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査まで辿ると、「業務効率化やコスト削減」「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」「セキュリティの強化」が挙げられています。業績の良い製造業ほど、ものづくりに必要な固定資産だけでなく周辺の無形資産まで投資できる余力がある、考えが及んでいると推測することができます。法的な対応や経理処理、明日出荷するモノづくりに必要な設備などの絶対必要なことは皆着手するが、効率アップやセキュリティは今すぐやらなくても大丈夫な取り組みなので先送りします。その段階までできている、ということは業績が高いのも必然、と言えるのではないでしょうか。いわゆる重要だが緊急性が低い、という領域です。