需要予測、というと経済学の話か?とか難しい予測の式を使うやつでしょ?という反応が得られます。ビジネスの現場では売れる量を予測して仕入れる量を決めると言った文脈で使われることが多い需要予測。日常生活でも、1週間で牛乳が切れるから今日は2パック買っていこう、などと複雑な数値計算はしなくともざっくりとした予測をしています。しかしながら、ビジネスの現場では需要予測という概念はあまり語られることが無いように思います。コンビニの商品の仕入担当であったり、商社の卸品の受注担当であれば売れ行きを予測するのは日常だとは思いますが、まだまだ体系的に活用されているとは言えないと思っています。世の中に、需要予測に焦点を当てた書籍が少ないことからも、まだ中心的な業務領域だとは思われていないと感じます。製造業でいえば、需要予測よりも、製造の現場改善、や生産管理といったテーマの本の方がたくさんあると感じます。そもそも製造のサプライチェーン関連の書籍が少ないのもありますが。さて、今回は需要予測について整理していきます。
■前提
まず、今回需要予測を扱う際に、どういう位置づけで語っているのかを揃えたいと思います。本記事で需要予測、という場合、ビジネス用途でかつ製造業や卸売業の商品の売れ行き、及びそれ以外の業種でも備品などの消化具合を予測する意味合いで語ります。もしくはサービス業における来店客数を予測するという意味合いも含みます。
■需要予測とはなにか
まず需要予測とはなにかを定義していきましょう。根拠に基づく仮説を考慮し、求められる財/サービスの量を事前に推測して算出すること、と定義することとします。需要、というと経済の用語に聞こえてしまいますが、簡単に言うと欲望や何かを求める行為を指します。そしてそれを予測するわけですが、単なる運試しで予測するわけではなく、仮説を持って行います。とはいえ、数学的な予測だけを指すのではなく、過去の傾向を踏まえた勘なども仮説に含みます。また「事前に」という言葉も入っている通り、需要が実際に発生する手前で推測をします。実際には「いつどの程度」必要か、というのが重要にはなってくるのですが、需要予測の定義としてはこのようになるでしょう。
■需要予測の目標
次に、需要予測の目標を見ていきます。目標は需要の実績と予測値の乖離度合を出来るだけ小さくすることです。誤差が出るということは、何か対応をして帳尻を合わせる必要があります。誤差が大きいほど帳尻を合わせる対応の手間や工数、お金等を要してしまうことになります。例えば、実績>予測の場合、事前に準備した以上の求める量があるわけですから、売れる機会を逃したり求める人の満足が下がり、それに対して機会損失(本来得られるはずのものが無くなる)や、釈明という対応が発生します。一方で、実績<予測の場合、事前に準備した以下の求める量になってしまうわけですから、必要以上の品物を用意してお金を要していたり、保管して期限が切れて捨ててしまうといった対応が発生します。この対応や手間を極力少なくすることが需要予測の目標になります。需要予測の捉え方を拡げると、経営計画を立てたりするときの数値根拠になりますし、機械設備の必要台数やどれぐらい余力を持つかの在庫の計画、サービス業であればどの程度の人がいれば対応が間に合うかといった部分に影響を及ぼします。誤差を小さくすることも目標ですが、その先の事業計画やモノや人の余力の計画を立てることに役立てるという目標もあります。
■需要予測の位置づけ
需要予測は、ビジネスでどの場所に位置づけられるのでしょうか。先ほど述べた事業計画や余力の計画とも重複しますが整理していきます。ビジネスを営む場合、色々な機能の上に成り立っていることがわかります。製造業でいえば、作るものを設計し、部品を調達し、製品を製造し、顧客がいる場所まで運び、販売します。こうした企業の供給連鎖をサプライチェーンと呼びますが、この中で需要予測は位置づけられます。
製品の売れ行きを需要予測するとします。100個売れると予測したとします。そうすると、では部品の調達はどの程度すればよいのかが決まります。製造ではどの設備がどの程度の稼働率になるかが決まります。どの設備でどの程度の人が作業に当たるかが決まります。予測が外れた場合の売り切れが無いようにどの程度在庫を持つかが決まります。そしてどの拠点までどの程度の量を運ぶのか、物流の運搬量が決まります。そうした事業の種々の活動量が定量的に定まると、損益計算書や貸借対照表、資金繰りといった企業全体の財務状況が決まるわけです。需要予測が全体に影響する姿をイメージできますね。
上記のように需要予測はマーケティングとサプライチェーンの間に位置するもので製品の売れ行きの需要と、製品を安定的に届ける供給の要衝となっています。そして需要予測はサプライチェーンの目的にも資することになります。サプライチェーンの目的は、事業全体として可能な限り少ないコストで、モノの安定的な供給を可能にすることです。需要予測の誤差が大きくなればなるほど手間や工数が大きくなることは先ほど述べました。需要予測の目標を達成することで、サプライチェーンの目的にも部分的に通ずることになります。(勿論サプライチェーンの目的は需要予測だけで達成できるわけではありませんので部分的に、と記述しています)
■需要予測の誤差が大きい場合の影響
先ほど需要予測の誤差は小さい方がよいとお話しました。では誤差が大きくなった場合に具体的にどのような影響があるか整理していきましょう。
◇実績>予測 需要>供給 部品/製品/人/設備が過少の場合
・取引先や顧客が購入できないことによる満足度の低下、クレームの発生、信用の失墜
・需要に対応するための緊急の増産、間に合わせるためのスピード出荷
・緊急の対応のための急な残業
・売り逃しによる売上の機会損失の発生
◇実績<予測 需要<供給 部品/製品/人/設備が過剰の場合
・在庫や余力という形で売上に繋がらないためお金を余計に要する
・生鮮品なら期限が切れて廃棄、非生鮮品であっても売り物としての価値が低くなり除却
・売れ残りを叩き売りすることにより利益率が下がる/ブランドが棄損する
・物理的な在庫の場合、保管スペースを要し保管料が高くなる&棚卸で数量を多く数える必要がある
こうしてみると、顧客満足を標榜している企業が多い中で、顧客に影響が大きい前者(=実績>予測)を避けたいと考える方が多いと思います。顧客からクレームが毎回来たり、ブランドの失墜を避けたいと考えるのは普通です。しかし、品切れよりかは顧客満足を優先して在庫が過剰になることの方が許容されやすく、資金圧迫が常態化して大きな経営課題となっているケースが多いです。
■需要予測の精度向上
需要予測の誤差が大きい場合、影響が大きいことは理解できました。では誤差が少なくなるように精度を高めようとした場合、どうすればよいのでしょうか。まずは予測自体の精度を上げる、が思い浮かびます。今まで勘でやっていたものを過去の傾向を加味する。過去の傾向を加味していれば、統計の時系列モデルを取り入れる。更にARIMAモデルや重回帰分析を導入する。(統計のモデルの詳細は今回は扱いません)こうしたことを行い、売れ行きや消化具合の予測の精度を上げるのが考えられます。あとは、実績と予測のズレの具合を振返り、その理由を言語化して残しておくことで、統計のモデルでは加味できない事柄を予測に役立てるように加味することです。突発的なイベント(助成金の開始など)を考慮したり、数字の予測のカテゴリー分けで誤差が生じてしまう部分を修正するなどです。
もうひとつ別の観点として、サプライチェーン全体を俯瞰で見ることで精度を上げる考え方です。対営業部門としてのやり取りとして、製品を統合するという切り口があります。需要を予測する際、製品の数が細かく分かれているほど予測は難しくなります。纏まっている方が変動のブレが吸収されて予測がし易くなるのです。そこで、製品ラインナップを統合するように交渉するのです。次に、対製造部門や調達先とのやりとりとして、製造・調達ロットの分割があります。設備の製造ロット数や調達先の最低調達ロット数の制約によって本来必要であるはずの量を超えることが起こります。そうすると在庫が溜まり易くなるわけです。ここを解消するよう交渉することで、予測と実績のずれを小さくすることができます。あとは部門間の数字のサバ読みを極力なくす活動もあります。工程が分割されればされるほど、人はバッファーをみて余裕を積んでしまいます。この流れを可視化して断ち切るといった工夫も精度を上げる一つの考え方です。
統計の予測モデルの精度を上げることばかり着目してしまいがちですが、誤差変動の要因が明らかにならずに精度が上がらないといった状況も見られるので、サプライチェーンを俯瞰的に見ることの方が重要だったりします。
■世の中の企業の事例
では世の中の企業は、需要予測に対してどのような態度を取っているのでしょうか。キーエンスを例にとりましょう。キーエンスの需要予測に対する考え方は、予測精度で勝つというより、予測の不確実性を前提に設計するタイプです。キーエンスは、ファブレス(自社工場を持たない)で、直販で顧客情報を直接取得し、短納期で高付加価値を狙う思想です。そのため、予測で在庫を最適化するよりも、需要変動に追随できる体制を先に作っています。世界35万社以上の取引先があり「全世界当日出荷」体制を取り即納を競争優位の中核に据えています。いわば、在庫・物流設計そのものをサービス価値にしています。
そのため、需要予測で精度を高めて予測を外さず在庫を適正化するよりも、外しても顧客に迷惑をかけない/価値を見出してもらう体制を取っていると言えます。需要予測は一切せず在庫を過剰にもってよいという考えではないですが、顧客の設備故障や納品要望に即時対応することで競争優位を作っているということです。
キーエンスはこのような考え方であって、他の企業は在庫を極小にする、という思想で需要予測の精度を上げることに力を入れている企業もあります。またITシステムでの予測よりエクセルで人的に予測する方が精度が高いとそちらに舵を切る企業もあります。需要予測に対する考え方も企業によって違うので面白いところですね。
■纏め
需要予測とはなにか、いかがだったでしょうか。企業の業務の流れを踏まえたり、誤差が外れた時の影響を鑑みると、この記事を読む前よりも需要予測に対する重要性の認識や感度が上がったのではないでしょうか。日頃のビジネス活動でも、なにしから需要と供給が関係している場面があるはずです。その結節点である需要予測を意識しながら臨んでみてはいかがでしょうか。





