製造業を巡る現状と課題 経済産業省 2024年5月
経済産業省製造産業局が毎年出している、「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」を取り上げてみます。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/016_04_00.pdf
141Pの濃密なレポートとなっており、製造業の大きな動向を掴む、国が製造業をどう捉えているかを知る、には適切な資料であると感じます。
全体的にご紹介するのではなく、レポートを読んで印象に残る点を挙げていきたいと思います。
項目「1.製造業を巡る現状」3-30Pに絞ります。
■製造業企業の状況 P5
2014年に伊藤レポート(長期的に資本コストを上回る利益を生む企業を目指すべき、日本企業の収益性が低迷している)が発表され、ROEの目標水準を8%に掲げる提言がなされました。そこから10年が経ち直近では9,10%水準まで向上。ただ欧米に比べてかまだかなり劣位している状況。
ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本 株主が出資した資金を元手に、企業がどれだけ利益を上げたか
この式を分解すると、売上高純利益率(純利益÷売上高)×総資産回転率(売上高÷総資産)×財務レバレッジ(総資産÷自己資本)になります。純利益は上がっているものの、財務レバレッジと総資産回転率は下がっている(=設備投資が抑制されて経営が縮小している)とレポートから読み取れます。日本経済は失われた30年と昨今言われており、将来展望が明るくない中で設備投資に二の足を踏んでいるような印象を受けます。
■日本的経営とワールドクラスのギャップ① P15
まずは時間軸が印象的。日本企業は中期経営計画で3年に拘り、世界ではメガトレンドを考慮。教科書に従って中期経営計画で3年づつ見ていこうという固定概念が日本企業にはあり、世界のように長期的視点と中期の経営計画が繋がっていないところがありそうだな、と感じました。
2つ目は事業の足し引き。事業の優先順位とそれに伴うポートフォリオの設計が足りない点。引き算が苦手、というのは深く共感しました。引き算ができず満遍なくリソースを投入しがちだな、と感じることが多いです。過去の成功での事業があると、引き算でその事業から撤退するといった考えが想起しにくい、という点があるかもしれません。
■なぜ“技術で勝って、ビジネスで負ける”のか? P22
一言でいうと強いコーポレートが無いから。現場の改善や個々の技術は高いが、全体最適でのグランドデザインが乏しい。経営レベルが将来どう世界を描いていくのか、がより重要視される世の中になってきていると感じます。自社の能力や技術を分解して捉えた上でその個々の要素をビジネスストーリーで描く。全体を俯瞰した際に、個々の要素を再度見つめ直し、自社で行うべきなのか、外部に依頼/提携するのか、そもそもストーリーで描くありたい姿は他社事例の参考では無くあるか?といった視点で取組むことが必要かもしれません。