今回は、製造業における設計業務に焦点を当てます。近年、弊社においても製造業のお客様から「設計業務」を起点とした改善支援のご相談が増えており、その背景には、製品競争力や収益性、人材不足といった複合的な課題が存在していると感じています。弊社は技術者集団ではないため、メカ・エレキ・ソフトウェアといった個別技術の深掘りを行う立場ではありません。一方で、設計業務が企業活動の中で果たす役割や、業務プロセスとしての設計、部門横断でのマネジメントについては多くの知見を有しています。
本稿では、設計業務を「技術論」ではなく「企業活動の中核業務」として捉え直し、その重要性と基本構造を整理します。設計業務の本質を改めて確認することで、改善の方向性を考える一助となれば幸いです。
■設計業務はなぜ重要か
これは製造業に限った話ではありません。企業活動において、設計業務は「構想を具体化する最初の意思決定プロセス」と位置づけることができます。企業が営利活動を行う際には、誰に何を提供し、どのような価値を実現するのかという構想がまずあり、その構想をもとに製品開発や販売活動といった実行フェーズへ移行します。
このとき重要なのは、後工程でどれだけ努力しても、上流の構想が不十分であれば成果は限定的になるという点です。もちろん、構想だけで実行が伴わなければ成果は生まれませんが、実行の成否は上流での意思決定に大きく左右されます。実務上も、成果に与える影響は構想段階が相当部分を占め、場合によっては8割以上に及ぶことも珍しくありません。
例えば新規事業を推進するケースを考えてみます。「誰に」「何を」提供するのかという構想が曖昧なまま、実行を重視してしまうと、営業対象は広がりすぎ、提供価値も定まらず、「何でもできます」という曖昧な訴求になりがちです。この状態では、活動量を増やしても成果につながりにくく、結果として新規事業は停滞します。
同様の構造は、製造業の設計業務にも当てはまります。性能・品質・加工性・コスト・市場での使用条件といった観点を十分に検討せず、過去図面を前提に設計を進めた場合、設計段階では問題が顕在化しなくても、製造や検査工程で品質・性能の未達が発覚し、設計のやり直しが発生します。さらに深刻なケースでは、市場投入後に不具合が顕在化し、リコールに至ることもあります。実際、リコールに発展した不具合のうち、設計起因のものが約77%を占めるというデータもあります(国土交通省のリコール件数)。
このように、設計業務は単なる作業工程ではなく、後工程のコスト・品質・納期、さらには市場での評価までを左右する上流工程です。上流である設計段階の意思決定が、その後の企業活動全体に与える影響は極めて大きく、製造業において設計業務が中核的な位置づけを占める理由はここにあります。
■設計とはなにか
そもそも、設計業務とは何を指すのでしょうか。ここでは、設計業務を次のように定義します。
設計業務とは、市場・顧客要求および事業上の制約条件を踏まえ、製品として実現可能な仕様・構造・情報を定義し、品質・コスト・納期に加えて、量産・保守までを見据えた形で、再現性のある設計情報へと落とし込む一連の活動です。
この定義が示すとおり、設計とは単に形を決める作業ではなく、「成立する製品」を実現するための意思決定の積み重ねと言えます。設計業務は、主に以下の5つの要素で構成されます。
① 入力情報の解釈・具体化
顧客から提示される曖昧で定性的な要求を、そのまま受け取るのではなく、法規制や技術的制約、事業条件を踏まえた上で、設計可能な要件へと解釈・整理します。
② 要件定義・仕様設計
整理した要件に対して、品質・コスト・納期のトレードオフを考慮しながら、どこまで満たし、どこを割り切るのかを明確にします。ここでの判断が、製品の方向性を大きく左右します。
③ 具体設計(構造・詳細設計)
定義された仕様をもとに、メカ・エレキ・ソフトウェアそれぞれの領域で、製品として成立する具体的な構造解を導き出します。
④ 設計情報の成果物化
設計者個人の理解に留めるのではなく、設計意図や判断内容を図面や仕様書として明文化し、誰が見ても同じ品質を再現できる状態にします。
⑤ 下流工程との接続・調整
設計で完結するのではなく、調達・生産技術・製造・品質保証と連携し、実際に「作れる」「売れる」状態になるまでを見据えて調整を行います。
少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、設計業務とは、まだ世の中に存在しないものを、第三者にも再現できる形で可視化する仕事と捉えることができます。その際には、期待される性能や品質を満たしているか、不具合のリスクはないか、作りやすいか、過度なコストがかからないかといった条件を同時に満たすことが求められます。
■設計業務の本質
前述した「設計業務とは何か」という定義と重なる部分もありますが、ここでは設計業務の本質にあたる考え方を整理します。設計業務の肝は、突き詰めると次の3点に集約されます。
〇 曖昧さを排除し、判断を明確にする仕事
〇 将来顕在化する問題(コスト高・品質不良・量産トラブル)を上流で潰す仕事
〇 その判断の背景や理由を、情報として残す仕事
設計とは、与えられた条件の中で「何を採用し、何を採用しないのか」を決め切る行為です。顧客要求や社内条件は多くの場合曖昧で、相互に矛盾することもあります。設計業務では、それらを整理し、優先順位をつけ、判断として確定させていくことが求められます。また、設計段階での判断は、後工程において大きな影響を及ぼします。コストの増大、品質不良、量産立ち上げ時のトラブルといった問題の多くは、設計段階での検討不足や判断の先送りに起因します。設計業務とは、これら将来起こり得る問題を想定し、可能な限り前倒しで潰していく活動とも言えます。
さらに重要なのは、判断そのものだけでなく、なぜその判断に至ったのかを情報として残すことです。判断理由や検討経緯が残っていなければ、設計変更時や担当者交代時に同じ議論を繰り返すことになり、結果として非効率や品質低下を招きます。
実務上、設計業務については次のような誤解がしばしば見られます。
× 設計は、CADで図面を描くこと
実際には、図面を描く前段階で行われる要件の整理、選択肢の比較、そして意思決定こそが設計業務の中心です。作図作業は、その意思決定の結果を第三者が再現できる形で表現した一成果物にすぎません。どの要求を満たし、どこを割り切るのか。将来どのような不具合やコストリスクが想定されるのか。それらを踏まえた上で構造や仕様を決め切る行為が設計であり、CADはその判断を形として固定化するための手段と位置づけられます。
※CAD(キャド)とは、コンピュータ上で設計図や図面を作成・修正するためのソフトウェア
× 設計は技術職だけの仕事
実際には、設計業務は技術部門に閉じた活動ではなく、社内外の関係者をつなぐハブとしての役割を担っています。社内では、調達部門と材料・コスト・調達リスクをすり合わせ、生産技術・製造部門とは作りやすさや量産性を検討し、品質保証部門とは想定不具合や検査要件を事前に織り込む必要があります。設計は、これら複数部門の制約条件を踏まえた上で、全体として成立する解を導く調整機能を持つ業務です。また対外的には、顧客の技術情報や使用条件を正しく引き出し、曖昧な要求を設計要件として整理する役割も担います。その意味では、設計業務の相当部分は「技術を理解した上でのコミュニケーション」であり、顧客との技術折衝や、設計意図を分かりやすく説明する力が不可欠です。設計者には、専門技術に加えて、他部門や顧客との認識を揃え、合意形成を行うための説明力・調整力が求められています。
■よくある設計業務の課題
〇 変化点・変更点に対するリスク検討が形骸化している
仕様変更や顧客要求の変化が発生しても、「どこに影響が及ぶか」「過去設計との差分は何か」といった観点での整理が十分に行われていないケースが多く見られます。特定部門・特定個人の経験に依存した判断となり、調達・生産技術・品質保証など、関連部署を巻き込んだ検討がなされないまま設計が進行することで、後工程での手戻りやトラブルにつながります。
〇 設計ノウハウが属人化し、再利用できていない
設計上の工夫点や判断理由が設計者の頭の中に留まり、図面や仕様書には結果しか残らないケースが散見されます。その結果、類似案件でも毎回ゼロから検討を行うことになり、設計品質のばらつきや若手育成の停滞を招きます。設計知見を組織資産として蓄積・活用できていない点は、大きな構造課題です。
〇 顧客要求を製品仕様に落とし込めていない
顧客が求めているのは「軽い」「丈夫」「使いやすい」といった定性的な要求であることが多く、それを設計要件として定量化・言語化できていないケースがあります。結果として、顧客の期待と設計成果物にズレが生じ、試作・量産段階での修正や、最悪の場合は市場不具合につながります。
〇 設計部門としての方針・優先順位が不明確
どの製品・技術領域に注力するのか、どこで差別化を図るのかといった設計部門としての方針が明確でない場合、限られた設計リソースが分散します。結果として、本来注力すべき重要案件に十分な検討時間を割けず、全体として設計品質が平準化・低下してしまう傾向があります。
最後に
設計とは、製造業に特有の専門業務ではありません。曖昧な構想を、制約の中で実行可能な形に落とし込み、将来にわたって再現できるようにする。この行為は、製品開発でも、新規事業でも、組織改革でも同じ構造を持っています。設計を軽視したまま進めば、問題は必ず後工程に現れます。設計を「判断の仕事」として捉え直すことが、複雑な事業環境を生き抜くための土台になります。





