日本経済は失われた30年、と言われるのをよく聞くようになりました。さも低成長が長く続いたかのような印象を受ける言葉ですが、実態としては、企業は稼いでいたが、設備投資や給与アップに回されなかった時代です。賃金と物価水準も伸びて、株価もここ3,4年では上がってきてはいます。しかしながらまだまだ成長を実感できる状態になっていないのが実情です。人口減少や高齢化、人手不足といった将来に向けての課題が山積しています。そこで各企業が取り組んできたのが新規事業。新規事業で持続的な成長を改めて描こう、ということです。しかし新規事業を始めたはよいものの、殆どの新規事業は失敗に終わります。80%以上の新規事業は失敗するので、最もありがちな結果と言えます。そこで、新規事業の検証の方法と基準が重要になってきます。今回はそれを取り上げてみましょう。
新規事業は小さく始めて検証し、次に進むかを判断しよう、というのはよく言われることです。失敗したとしても小さく始めることにより被害が最小限に収まるからです。その失敗を得ることで、次の事業を始める際の教訓にもなります。しかし新規事業を始める際に、この検証の方法と基準が定まっていないことがあり、取組む人によって認識がバラバラだったり、見込みがない新規事業なのにずるずると続けていったりしてしまいます。それらを防ぐために、新規事業の仮説を検証する考え方「XYZ仮説」を用います。まず検証したい仮説を用意します。市場の需要とはどのようなものかをはっきりと定義し、そうした需要が実際に存在するかどうかを確認する。それが新規事業の仮説です。
・中堅製造業の現場マネージャーは、紙やExcelでの日報管理に課題を感じており、クラウド上で簡単に日報を処理できる手頃なサービスに興味を示すはずだ。
この仮説に対して、中堅製造業とはどういう範囲なのか。日報処理の手間は具体的にどのようなものか、手頃なサービスはいくらなのか。この辺りがまだ曖昧です。この状態で仮説検証に走ってもどういう状態になれば立証なのかダメなのかがわかりません。仮説であっても具体的に決めないと検証ができないのです。そこでXYZ仮説です。
少なくともX%のYはZする。
このシンプルすぎるフレームワークに現時点で最も適する値をあてはめて、仮説を検証するのが最も素早くかつ効果的です。少なくとも20%の中堅製造業(従業員数50名以上)の現場マネージャーは、月額1万円のSaaS日報管理システム(日報を集計してくれる)を購入するはずだ。
これで曖昧な思考が排除され、検証が具体化されました。特に重要なのはできる限り数字を使うというものです。これによって、この日報管理システムを売る新規事業の共通の認識を揃えることができました。中堅製造業の範囲、日報処理のなにが手間なのか、手頃なサービスの値段は?ここが具体化され、最後に”購入する”というアクションも明確化されました。尚、定義した数字は出発点に過ぎません。20%、50名、1万円という数字は最初の仮置きです。検証を進める中で緩めたり厳しくしたりすることで検証を狭めていきます。1回の実験で満足する/悲観するのではなく、少なくとも3-5種類の実験を繰り返すことが望ましいです。
更にポイントは、潜在市場の対象範囲を狭め、小規模だが最終的なターゲットとする市場と同じ性質を備えた部分的な検証結果が得られるようにすることです。実際に候補となるターゲットに試してみるのです。しかしながら知り合いの1社2社だけに聞いただけでは、信頼性に乏しいです。統計的に意味のあるサンプル数を取得する必要があります。統計学的に厳密なサンプル数を取得しようとすると大変なので、BtoBであれば10-20社ほどは欲しいところです。BtoCならば100-250人程度。
ここまで来れば、新規事業を検証する準備が整ったと言えます。闇雲に新規事業を試すのではなく、まず仮説を準備し、XYZ仮説の文脈に沿わせる。そして数字を用いて具体的に検証できる姿に仕立てます。まずはここから始めてはいかがでしょうか。