事業というのは突き詰めると「不」の解消です。不満、不安、不足、不便、不快、など様々ありますが「不」とつくものを解消することで売上や収益に繋げるのが事業です。今回は、「不」の大きさを取り上げてみたいと思います。新規事業を起こすときによく言われるのは、顧客の「不」に着目しよう、です。「不」がなんであるかの見極めは多くの人が着手するのですが、大きさにまで思いが行き届くことが無かったりします。見込みの顧客がどんな「不」を抱えているか、の議論は別に譲るとして大きさだけにフォーカスしてみましょう。
事業を起こす場合、それぞれ期待できる収益の規模があります。この規模は、解消する「不」の大きさに比例することになります。「不」の大きさだけで事業を行うかどうかを決めるわけではありませんが、あらかじめ認識した上で事業に取り組まねば儲からずに撤退することになりかねません。(スモールビジネスや副業であれば話は別ですが)
「不」の大きさは、BtoBでもBtoCでも同じですが、
➀不を抱いている数 × ➁不の深刻さ × ➂不が生じる頻度
で表すことができます。「不」を抱いている人の数だけで捉えてしまいがちですが、深刻さと頻度を掛け合わせることで立体的に浮かび上がらせることができます。
➀不を抱いている数
まず人数ですが、同じ「不」を持った人/企業がどれぐらいいそうか、を考えます。ある特定の人や企業が「不」を抱えていたとしても、同じように感じている人がいなければ事業になりません。推計には、マクロ的な市場調査の結果から仮説を立てて分解して推計するか、ミクロ的に似た属性の人や類似の状況、類似商品の販売状況から仮説を立てて積み上げて推計する方法があります。(推計の仕方は別に譲ります)
➁不の深刻さ
それぞれの人/企業の「不」がどれぐらい深刻なものか軽微なものかを推計します。「不」の感じ方は人や企業でそれぞれなので数値化は難しいですが、間接的に推計します。その深刻さの度合いは、その「不」をどのような代替方法で解消/軽減しようとしているかで測ることができます。経営判断に必要な数字がリアルタイムで見えないので、優秀な経理担当者が毎日数日かけて複数のExcelを力技で手入力をしている、といったことです。「不」を感じているものの誰も解消していないものである場合は、類似のもので代替して推計します。
➂不が生じる頻度
「不」を感じる頻度が多いほど「不」の絶対量は大きくなります。人生で一度しかないものもあれば、年に1回、毎週、毎日という「不」もあります。一般的に頻度が多いものは深刻さが小さくなり(会議のアジェンダ共有漏れで冒頭の5分がムダになる)、頻度が少ないものは深刻さは大きくなりがち(30年に1回の企業の代替わりの事業承継で経験がないため親族間の争いや主要顧客の離反)です。そのため頻度が少ないといって「不」の絶対量は小さいわけではありません。また深刻なものではなく軽度の「不」であっても頻度が高ければ最終的な「不」の絶対量は大きくなるかもしれません。
それでは、「不」の大きさを推計してみましょう。これは3つの掛け算を数値化して精緻に出す必要はありません。しかしながらどういう特徴の不なのか、どれぐらいの不がありそうなのかを把握するためには不可欠です。
具体的に2つ例を挙げます。
1 コンビニエンスストア(BtoC・軽度×高頻度×超多数)
◇解消している「不」
不便(すぐ買えない)
不足(今すぐ欲しい)
手間(移動・時間)
①不を抱いている数=ほぼ全国民
年齢・性別・所得を問わず、都市部・地方部ともに該当
②不の深刻さ=1回あたりは軽度
「死活問題」ではなく、代替手段も多い(スーパー、自販機、家にあるもので我慢)
③不が生じる頻度=毎日、場合によっては1日複数回
食事・飲料・日用品という生活の基盤に直結する
◇不の大きさの特徴
人数:最大× 深刻さ:小× 頻度:最大 → 薄く広くだが膨大な不

2 企業向け基幹システム(BtoB・高深刻度×低頻度×限定人数)
◇解消している「不」
不安(経営判断ができない)
不整合(数字が合わない)
不透明(利益構造が見えない)
不確実(内部統制・ガバナンス)
①不を抱いている数=中堅〜大企業に限定
ERPパッケージを導入している企業のため少数
②不の深刻さ=非常に高い
誤った経営判断や不正・不祥事リスク、成長停滞や競争力低下に直結し放置コストが極めて大きい
③不が生じる頻度=導入・刷新は数年〜10年に1度
日常的に「痛み」を感じるわけではない
◇不の大きさの特徴
人数:小 × 深刻さ:最大 × 頻度:低 →狭く深い不

応用編です。自社で営む事業には、幾つかの種類があると思います。その事業の種類に応じた積上げを描いてみると特性が見えてくることにも使えます。例としてコンサルティングを挙げました。定型的なパッケージのサービスと、プロジェクト型のオーダーメイドなサービスを提供している場合です。この2つは同じ「不」ととして捉えてしまうと、対応を間違えてしまいます。そのため敢えて分けた上で積み上げてみました。

新規事業を始める際は、「不」の大きさをイメージする。「不」の特定だけでなく、大きさを一度立体的にイメージしてはいかがでしょうか。新規事業を開始するときに俯瞰で見れるようになり、「不」の代償もさることながら、意外な機会やリスクに気づけるかもしれません。





