意外と知らない原価計算の基礎
企業の経営管理で大きな位置を占める、原価計算を取り上げます。特に企業規模が大きくなるに従い、費用をどう可視化、計算、管理するのかは重要なテーマとなっていきます。企業活動において売上を上げることは最も肝要ではありますが、費用を制するものは儲けを制する、です。
入口として、原価計算にまつわる基礎的な部分に触れていきます。
■原価と費用との違い(製造業を想定)
まずは混同しがちな原価と費用の違いについて。概念としては、費用の中に原価が含まれます。
-原価とは、売上に個別に対応して、何かを作り出すために要した費用。アウトプットとして製造原価や貸借対照表に計上、売上げたら売上原価へ。
-費用とは、売上に個別に対応せず、発生時点の期間で計上される費用。インプットとして損益計算書に即座に計上。
なぜこのようなことをしているかというと、収益と費用をできる限り企業の経済活動の経済的因果関係に応じて(売上と費用を紐づける)適切に表そうとする「費用収益対応の原則」があるからです。
ある製造業で、30円×3個で作ったものが50円×2個売れた、広告費用を30円使った場合の処理は以下になります。
・売上50円×2個=100円、売上原価30円×2=60円が損益計算書に計上
・売れ残ったものは棚卸資産30円×1個=30円で貸借対照表に計上して翌期に持ち越し
・広告費用は売上に個別に対応しないため、30円を損益計算書に即座に計上
日常で使っているとどちらがどの意味を指しているのか不明になりますが、きちんと使い分けがあります。
ちなみに、なぜ「費用計算」、ではなく「原価計算」と記載するのかは、決算を作成して利益や税金を確定させる際に原価を適切に認識して計算することが心臓部分であるからです。(費用よりも原価を的確に捉える方が難易度が高い)
■原価計算の目的
次に、なぜ原価計算を行うのか、の目的を整理したいと思います。大きく3つあります。
①決算書作成 内部的な経営成績の把握、株主や債権者などの企業外部者に向けて
②原価管理、価格決定 原価の良否を管理/検証する、その原価にもとづいて価格を決定する
③予算/経営計画の策定 原価の集合/群にもとづいて企業全体の費用枠組み、売上/利益を設計する
決算書を作るだけではなく、価格決定や経営計画の策定など「攻めの経営」に資する部分にも原価計算の目的としてあります。
■制度会計と管理会計の概念
原価計算の解説記事などを読むと意外とこの概念に触れていないことがあるのですが、2つの会計処理があります。
-制度会計とは、会社法、法人税法、原価計算基準などによって企業の恣意性を排除した公正妥当な会計処理を指します
-管理会計とは、経営の意思決定に資するために企業内部で独自に整えた会計処理を指します
制度会計は、企業の決算書を作る際に、それぞれの企業が会計処理を勝手に行っていたら同じ基準で比較できなくなるのを防ぐため決められたルールに従って処理をするものです。また、課税する際に標準のルールを設けることで納税額を適切に計算する意味合いもあります。一方で、制度会計では不十分な経営の意思決定に必要な情報を得るために原価計算の情報を「勝手に」加工するのが管理会計です。経営分析、制度外原価計算、戦略会計などが挙げられます。
制度会計は税金を計算するために必須で必ず行う必要があります。管理会計は行う必要がないので、企業毎に取組みに差があります。私の経営コンサルティングの経験上も、管理会計の取組みに注力している企業は事業成績もよい印象があります。
こうした、緊急ではないが重要度が高い原価計算(管理会計)に取組んでみましょう。