原価計算で自由度が高く難しいテーマその2 (予定価格の設定)

前回、テーマその1で間接費の配賦を扱いました。企業が独自に決めてよい概念なので正解がなく迷いが生じるテーマでした。今回は、その続きでその2、「予定価格の設定」を扱います。

※前提として、企業会計原則/原価計算基準に則った原価計算をベースとし、製造業を扱います。
※過去投稿の「夏は儲かって冬は損する?(費用計算)」も参考にされるとより理解が進むと思います。

さて、まず予定価格とはなんなのか?から説明します。

実際生じた結果をベースに、翌期の予算や利益を予測した計画値を立てます。その計画値から分解して算出した価格を指します。標準価格、という概念も出てきますが、「標準」との違いは、単に予測した数字、が「予定」です。

例えば製造業の製造指示書別に項目を集計すると、以下のようになります。(厳密にいうと予定価格は賃率や配賦率も含みます)

直接材料費=予定消費価格×実際消費量
直接労務費=予定賃率×実際直接活動時間
製造間接費=予定配賦率×実際操業度 (間接費を配賦するときに工場の操業度を用います)

これは、単価×量、と分解したときの単価の部分を「予定」にしている、という式です。なぜこんな予定の概念を使うのか。

①実際原価を使用すると、原価計算期間を終えないと個々の製品の製造原価が確定しない

毎月で締めて製品の原価を算出しているとすると、月中では様々な価格の材料を受け入れて製造に使います。そして製造間接費や工場の操業度は月末まで待たないと判明しません。そうすると月中に原価見積を出したり、利益の管理が難しくなります。しかし予定を用いることで比較的早く計算を済ますことができます。(昨今のIT技術の発展によって集計自体は高速で出来る環境はあるかもしれません)

②実際原価だと、季節的な変動要因を受けやすく、実際価格が変動してしまう

IT技術により①が解決したとしても、②が難しい。これは過去の投稿の夏は儲かって冬は損する?のお話です。アイスや飲料は夏場が良く売れて工場の操業度も高く、配賦率が低い=利益大。冬場はあまり売れずに工場の操業度も低く、配賦率が高い=利益小。一方で販売価格は年間で一定です。これを予定価格で年間一定にすることができれば、原価を安定させることができます。原価を安定させることができれば利益の予測や販売施策も安定します。

ではこうしたメリットがあるにも関わらず予定価格の設定が難しいと言われるゆえんは何なのか?

①実際と予定の差異の分析が実務上煩雑である
特に製造間接費配賦差異が厄介で、予定価格を設定して操業度差異と予算差異と能率差異まで分解して分析するとなると、各部門からの情報収集/原因究明なども含め時間を要します。

②差異を分析しても責任区分が曖昧であるケースがある
操業度差異は、営業と工場で責任が分かれます。販売計画が過大で営業に責任がある場合もあれば、間接時間の増加、設備などの生産効率の悪化で工場に責任がある場合もあります。これらが絡み合って責任所在があいまいになるケースがあります。

③予測の精度と予算の精度の両方がある
操業度が大きく変動し、操業度差異が多額に発生して適切な原価を算定できず、予測が難しいというのがあります。また、年間の予算が月別に固定的に設定されますが、操業度差異が月ごとに大きくぶれるので予算を変動的に組みたいが現実的には難しい、もあります。

④予算操業度を越えたとき、予算差異が急増する(公式法変動予算を用いている場合)
専門的な領域になるため詳細は割愛しますが、予算操業度を実際操業度が上回ると有利差異となります。操業度差異と予算差異を計算上つじつまを合わせようとすると予算差異が急に増加し、現実の姿と乖離が激しくなります。

「予定」の設定は、実際の比較/差異を生じさせることと、正解が無い自由度が高い要素であることからの難しさがあることがわかりました。後半少し専門用語を使ってしまいましたが、予定価格の難しさのイメージが伝われば幸いです。