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2026-1-10 経営の読み物

偶然が歴史を決めた進化の物語 【ワンダフル・ライフ】

今回は、私自身が強い影響を受けた書籍を紹介します。近年は、いわゆるビジネス書よりも、他分野や抽象度の高い領域から示唆を得る機会が増えました。自分にとって未知の視点に触れることで思考が新鮮になり、より俯瞰的に物事を捉えられるようになります。その結果として、自分の世界が拡がっていく感覚が面白いのだと認識しています。本記事では、単なる要約にとどまらず、本書を読む中で私が感じた重要な問いとその考察、さらに企業活動への示唆までを含めて整理しています。

さて、今回取り上げる書籍は、「ワンダフル・ライフ バージェス頁岩と生物進化の物語」です。著者は、アメリカ合衆国の古生物学者・進化生物学者であり、科学史や地球科学にも多大な業績を残したスティーブン・ジェイ・グールド(1941年生まれ)です。初版は1989年で、古生代約5億年前のカンブリア紀に生息していたバージェス動物群を題材に、生物進化の偶発性と多様性を描いた一冊です。文庫版では600ページを超える分量のため、読む際には相応の覚悟が必要でしょう。

書籍表紙:『ワンダフル・ライフ バージェス頁岩と生物進化の物語』
スティーヴン・J・グールド著/早川書房(文庫版)

なお、以下の記述における動物群の分類や問いへの考察は、本書執筆当時の知見を前提としています。そのため、現在の研究では一部が修正、あるいは覆されている可能性があります。その点をご理解いただいた上で読み進めていただければ幸いです。

■概要

〇本書で示したいこと:二重のワンダー

本書は、生物そのものがもつ造形的・構造的な美しさに対する驚嘆と、それらの存在が私たちの生命観そのものを揺さぶり、更新してきたという点に対する驚嘆、すなわち「二重のワンダー」を示すことを目的としています。進化の歴史は必然の積み重ねではなく、偶発性が大きく歴史を方向づけてきたという視点が、本書全体を貫くテーマです。

〇カンブリア紀の大爆発

ブリティッシュ・コロンビア州東端、ヨーホー国立公園内のカナディアン・ロッキー山中で発見されたバージェス頁岩の無脊椎動物群は、世界でも最も重要な化石動物群のひとつです。現生する多細胞動物の主要なグループが化石記録上ではっきりと姿を現すのは、約5億7千万年前であり、その現れ方は緩やかな増加ではなく、地質学的に見て極めて短期間に集中していました。この出来事は「カンブリア紀の爆発」と呼ばれています。

バージェス頁岩は、この爆発直後に広がっていた世界を直接覗き見ることができる、ほぼ唯一の大規模な窓です。この一地点から発掘された生物の多様性は、解剖学的な設計の幅という点で、現代の海洋に生息する無脊椎動物全体を上回る可能性があることを示しました。実際、バージェス動物のうち15〜20種ほどは、既知のどのグループにも分類できず、独立した動物門として扱うべき存在でした。

同時に、現在の地球上で圧倒的な数を誇る節足動物門の主要4グループを代表する初期の系統も確認されています。

➀三葉虫類(既に絶滅)
➁甲殻類(カニやエビ)
➂鋏角類(クモやサソリ)
④単枝類(昆虫など)

一方で、現生するどのグループにも属さない節足動物が20〜30種類も見つかっています。分類学者はこれまでに100万種以上の節足動物を記載してきましたが、それらは基本的に4つのグループに収まっています。にもかかわらず、バージェス頁岩からは、それとは別系統の多様な設計が一挙に姿を現します。

〇進化図の誤り

人類の認知能力が直線的に増大してきたという考えは、教訓的でありながら誤りを含んだ進化図によって強化されてきました。生命の歴史は、あらかじめ決められた進歩の梯子ではなく、数多くの枝を伸ばし、絶滅という作用によって絶えず剪定され続ける樹木のようなものです。

私たちは、生き残った系統を「到達点」や「最高点」と捉えがちですが、実際には無数に存在した可能性の中で、たまたま残った枝の一つにすぎないのかもしれません。それにもかかわらず、進歩が予測されていたかのような図式が繰り返し用いられてきました。逆円錐型や梯子型の図(後述、手書き有)は、時間的配置を価値判断と結びつけ、「単純から複雑へ」「原始的から高等へ」という解釈を正当化してきたのです。

こうした図式が否定されることは、人類中心的な願望や思い上がりが崩れることを意味します。そのため、私たちは無意識のうちにそれらの図を手放すことを恐れてきたとも言えます。

〇悲運多数死と多様化

現在の地球は、かつてないほど多くの種を擁していますが、それらの多くは、解剖学的には少数の基本的な設計の反復にすぎません。バージェス時代の海と比較すると、現代の海洋生物は種数こそ多いものの、その基盤となる設計プランの種類は著しく限定されています。

進化の道筋は多様であり、各段階にはそれぞれ原因がありますが、出発点に立った時点で最終的な到達点を予測することはできません。同じ歴史が同じ形で繰り返されることもありません。生物史における重要な事実は、初期に存在した異質性が大きく減少し、その後、生き残った少数の設計の枠内で多様性が拡大していった点にあります。

〇分類学とアノマロカリス

分類学(taxonomy)とは、生物を共通の特徴や進化的関係にもとづいて整理・命名・体系化する学問分野です。基本的には、界・門・綱・目・科・属・種という7つの階層から成り立っています。バージェス動物群を理解するうえでは、とりわけ「門」という分類階層が重要になります。

門は、解剖学的な基本設計プランの違いを示す枠組みであり、海綿動物門、刺胞動物門、節足動物門、棘皮動物門、脊索動物門など、約20〜30が知られています。バージェス頁岩から見つかる15〜20種類のユニークな生物は、解剖学的独自性の観点から見れば、それぞれが独立した門に相当すると考えられていました。

アノマロカリスは、研究の進展とともに分類が大きく変化してきた、きわめて象徴的な生物です。各種文献を参照しながら、理解の助けとして昔の姿を手書きで書いてみました。

以下では、アノマロカリスがどのように分類され、どのような経緯でその理解が変化してきたのかを、時系列で追っていきます。

① 19世紀末:断片的発見と誤分類の時代
1886年、カナダのバージェス頁岩から、奇妙な化石がいくつか発見されました。しかし当時は、それらが同一の生物に由来するとは考えられていませんでした。鋸歯状の付属肢はエビやロブスターの腹部、円盤状の構造はクラゲ、輪状の口器のような部分はウミユリやヒトデの一部と解釈され、それぞれ別々の生物として分類されていました。この段階では「アノマロカリス」という生物像は存在せず、分類学的にも節足動物の断片として扱われていました。

② 1892年:アノマロカリス属の命名(誤解を含んだまま)
1892年、ホワイトヴェースによって鋸歯状の付属肢が「異常なエビ」として記載され、アノマロカリスという属名が与えられます。ただしこの命名は、甲殻類の腹部であるという誤認に基づくものでした。名称は与えられたものの、生物としての実体は依然として誤解されたままでした。

③ 1970年代:全体像の再構築という転換点
1978年、ハリー・B・ウィッティントンとサイモン・コンウェイ=モリスによって、研究史上の大きな転換がもたらされます。両者は、それまで別個の生物と考えられていた化石を再検討し、「付属肢」「口器」「体部」が実は同一個体に属することを明らかにしました。その結果、アノマロカリスは全長50cmを超える大型捕食者であり、頭部に一対の把握用付属肢、中央に円形の口器、体の左右にヒレ状の体節を持つ生物であることが判明します。こうして、カンブリア紀の頂点捕食者という像が確立されました。

④ 1980〜90年代:節足動物か否かを巡る議論
全体像が明らかになると、次に浮上したのが系統的位置を巡る問題です。大型で付属肢を持ち、外骨格のような構造を備える点から、節足動物に含める説が提案されました。しかし一方で、関節構造や体節の作り、複眼の異様な複雑さ、節足動物とは大きく異なる口器など、既存の節足動物の定義に収まらない特徴も次々に指摘されます。

⑤ 1990年代後半〜2000年代:幹系統という視点の導入
研究が進むにつれ、オパビニア(後述、手書き有)など他のカンブリア紀動物との共通性が注目されるようになります。ここで重要となったのが、現生の節足動物に直接属するのではなく、「幹系統」に位置づけるという考え方です。

⑥ 現在の整理:ラディオドンタ類としての位置づけ ※本書以降の話
現在では、アノマロカリスはラディオドンタ類に属する、幹系統節足動物として整理されています。昆虫や甲殻類、クモ類の直接の祖先ではありませんが、それらへと進化していく系統の近縁に位置する、すでに絶滅した系統と理解されています。

⑦ 分類学史としての意義
アノマロカリスは、分類学史において非常に示唆的な存在です。断片的な化石による誤分類、再構築による生物像の刷新、そして系統学の発展に伴う「幹系統」という概念の定着。分類とは単なる事実の集積ではなく、理論的枠組みの進化とともに更新されていくものであることを、この生物は端的に示しています。

尚、他の主なバージェス動物群をご紹介します。各種文献を元に、手書きで書いてみました。現存する動物たちと比べて面白い形態をしています。自然界の壮大な実験を感じますね。他にも面白い動物群がたくさんいるので、ご興味を持たれたらウェブで調べてみてください。

ウィワクシア
体表を覆う鱗状構造と棘を持つ小型動物で、軟体動物や環形動物に近い幹系統

オパビニア
5つの眼と把握用の吻を持つ特異な形態の動物で、節足動物の幹系統に位置づけ

マルレラ
多数の体節と付属肢を備えた、比較的節足動物に近い形態の動物

ハルキゲニア
背中に棘、腹側に柔らかい脚を持つ細長い動物で、節足動物や有爪動物に繋がる初期系統を示す存在

■本書を読む中で感じた重要な問いと考察

ここまでがワンダフル・ライフの概要を述べたものです。ここからは書籍にも触れられていますが、私が感じた重要な問いを考察していきます。

1)なぜカンブリア紀に急速に高い異質性が発生したのか

進化初期に特有の条件が同時に重なっていたのが理由です。初期の多細胞動物では発生プログラムがまだ単純で柔軟性が高く、遺伝的な小さな変化が体制全体の大きな違いとして表れやすかったのです。その結果、形態設計の可能空間が短期間に広く探索されました。また当時の海洋生態系は未分化で、生態的ニッチの多くが空白のまま残されており、体制の大胆な試行錯誤が制約されにくい状況にありました。さらに捕食者の出現によって選択圧が急速に複雑化し、防御構造や運動能力、感覚器官などの多様な形態が促進されました。

上記を後押しするような環境の変化も挙げられます。まず酸素濃度の上昇です。新原生代末〜カンブリア紀初期にかけて海洋中の酸素量が増加し、比較的大型で能動的に動く多細胞動物が維持可能になりました。これは捕食や高速遊泳、複雑な感覚器の進化をエネルギー的に支える前提条件でした。次に海洋化学の変化です。カルシウムやリンなどの供給増加により、硬い殻や骨格の形成が可能になり、捕食・防御の軍拡を通じて形態的多様化が促進されました。また、全地球的な寒冷化後の環境再編も重要です。大規模撹乱の後、生態系がほぼリセットされたことで、ニッチが広く空いた状態が生まれました。これらは可塑性と偶然性が作用できる舞台を整えた条件になります。

2)カンブリア紀以後に悲運多数死で死滅したのは何が要因なのか

カンブリア紀以後の系統淘汰が、ダーウィン的な意味での「適者生存」と必ずしも一致しません。カンブリア紀初期には門レベルで異なる体制が同時に存在していましたが、生態系は未成熟で、食物網も不安定でした。この段階では、自然選択は微細な適応差を精緻に選別するほど強く働かず、環境変動や局所的な撹乱が系統全体の存続に直結しました。地理的分布や個体数といった偶然的条件が生死を分け、消えた系統の多くは機能的に劣っていたからではなく、単に「不運」だったにすぎません。生き残った系統が「適者」に見えるのは、その後の進化史を独占した結果であり、適応度の高さが事前に保証されていたわけではありません。ここでの自然選択は最適化の装置というより、歴史的偶然を固定化する仕組みとして機能したと解釈されています。

3)現在~5億年前の間に、改めてのカンブリア爆発的なものが起こらないのはなぜか

現在から約5億年前までの間に、カンブリア紀に見られたような爆発的な体制の出現が再び起こらない主な理由は、進化が進むにつれて制約が累積してきたためです。初期の多細胞動物では発生プログラムが単純で柔軟性が高く、わずかな変異でも体制全体が大きく変化し得ました。しかしその後、発生制御は複雑化・安定化し、基本的な体制を大きく変更する変異は致死的になりやすくなりました。また、生態系は長い時間をかけて構造化され、主要なニッチは既存の系統によって占有されています。そのため、新たな体制が成立しても競争に勝ち残る余地は限られます。さらに、大規模な環境変動が起きても、それは既存体制の入れ替えを促すにとどまり、設計原理そのものを刷新するほどの自由度はもはや残されていません。結果として、進化は既存の体制の枠内での多様化を中心に進行し、カンブリア紀的な爆発は再現されないのです。

■企業活動への示唆

本書の議論を企業活動に引き寄せると、成長過程における「異質性」と「多様性」の違いが重要な示唆として浮かび上がります。企業が小規模であるスタートアップ期は、カンブリア紀初期と同様に、戦略・組織・事業モデルの設計が未固定であり、試行錯誤の自由度が高い段階です。この時期には大胆な仮説や一見すると非合理に見える選択も成立しやすく、異質性が高い状態が保たれます。しかし規模拡大とともに、成功体験や制度、業界慣行が蓄積され、組織の設計原理は収束していきます。その結果、新奇な発想は生まれにくくなりますが、既存の枠内での改善や多様化はむしろ加速します。

また、本書が強調する偶然性は、ビジネスにおいても無視できません。成功企業が合理的に見えるのは事後的評価に過ぎず、実際には市場環境や適合するタイミングといった運の要素が大きく作用しています。だからこそ重要なのは、最初から「正解」を当てに行くことではなく、打席に立ち続け、失敗を蓄積しながら生存確率を高める姿勢です。進化史と同様、企業の歴史もまた、選ばれた優等生の物語ではなく、偶然を乗り切った存在が残る過程だと捉えるべきでしょう。

また、アノマロカリスの分類史が示しているのは、既存の枠組みに収まらない存在が、本質的な価値の欠如というより、評価や理解の枠組みが未整備だったために、その意義が見えなかったという事実です。断片的な情報と未成熟な理論のもとでは、本来は一体であるものが分断され、正しく評価されませんでした。企業活動においても同様に、既存の事業や職種、評価制度に当てはまらない人材や取り組みは、価値が見えにくくなりがちです。更に、進化史における幹系統の概念が示すように、最終的に生き残らなかった試行であっても、それは無意味な失敗ではありません。撤退した事業や成果に結びつかなかったプロジェクトも、組織の学習を支える蓄積となり、将来の判断精度を高める基盤となります。分類や評価は固定すべき結論ではなく、現実に応じて更新され続ける仮説だと捉える必要があります。

いかがでしたでしょうか。本稿の執筆者である私が好奇心をくすぐられたワンダフル・ライフ。自然の壮大な実験で生まれた現在では見たことも無いような形態の生命の驚嘆と共に、企業活動への示唆も多く含まれていると思いました。また、分類学として過去の生命を分類する分野ですら、発展や進化を遂げるところへの驚きや、分類の奥深さを感じました。生命の進化史も示すように適者生存ではなく、意外にも「運」の要素が強いと改めて考えさせられました。億の年数で紡がれた進化史は、人間の営みよりも遥かに長いです。そこで得られる頑健な示唆は、令和の現在でも根底に通ずるように存在するはずです。

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