DXの前に企業のムダ改革

最近の人口動態の変化で社会の高齢化が進む中で、働き手の数が減少し、他社の労働を消費する側=働けなくなる高齢者が急増しています。それにつれて労働の需給ギャップが激しくなることが予想されます。つまり、労働の供給が制約され、需要が過剰になる世界が到来します。その結果、2040年には1000万人以上の働き手が足りなくなると言われています。

こうした中で、解決策として挙げられているのが、徹底的な機械化/自動化/DX化、生活維持サービスの計画的縮小、女性/シニア/外国人の就業率拡大などがあります。もうひとつ、企業の業務のムダを撲滅する、という考え方もあります。ムダを撲滅することによって、労働の需要を圧縮し、需給ギャップを改善する考え方です。弊社は企業向け経営コンサルティングサービスを展開しているため、今回はこの企業の業務のムダを撲滅するところにスポットライトを当てたいと思います。

リクルートワークス研究所の企業のムダ調査から引用して、企業の内部でどんなことをムダだと思っているかを見ていきましょう。
https://www.works-i.com/research/report/item/forecast2040_muda_summary_2.pdf

経営者・役員、組織長、就業者の3属性の方に質問した回答がベースになっています。2022年実施。(詳細の目的、対象者、設問、期間、調査方法はURL資料の15P参照)

3つの設問と回答をみていきます。

①ムダな業務の存在と割合

自社/自組織/自身にムダな業務があるか
→経営者・役員=69.5% 組織長=72.6% 就業者=56.6%
全業務に締めるムダな業務の割合
→経営者・役員=平均16% 組織長=平均21.7% 就業者=平均14.9%

②ムダな業務削減への意識

自分で減らせる自社/自組織/自身の業務のムダがあるか
→経営者・役員=84.9% 組織長=84.8% 就業者=71.9%
ムダを減らすことで自身の労働時間をどれくらい減らせるか
→経営者・役員=11.7% 組織長=14.7% 就業者=11.8%

③具体的なムダがよくある・多い上位3業務

経営者・役員
1)システムが無い・古いことで、紙でやらざるをえない業務
2)不必要に細かすぎたり、必要以上に高い品質を要求される業務
3)頻度や1回たりの業務量が多過ぎる業務

組織長
1)自分では必要性を感じないが、上司や関係者が必要だというので実施している業務
2)簡単な方法があるのに、わざわざ面倒だったり時間がかかる方法をやっている業務
3)業務の関係者bの能力・努力の不足の穴埋めをするための業務

就業者
1)システムが無い・古いことで、紙でやらざるをえない業務
2)簡単な方法があるのに、わざわざ面倒だったり時間がかかる方法をやっている業務
3)自分では必要性を感じないが、上司や関係者が必要だというので実施している業務

まずは、①から。どの属性の人も過半数がムダな業務があると感じています。まずこの時点で驚きですね。3,4割ぐらいの方が薄々思っている、という程度ではなく、過半数の方が感じています。明らかにムダな業務がある、ある意味どの企業もムダが生まれてしまっている、ということが言えます。ではムダな業務の割合はどれぐらいか、と聞くと平均で15-20%程度。週に6-8時間程度はムダな仕事をしていると感じているということです。こちらも興味深いですね。週に8時間というと、週5日勤務の場合、週4日で済んでしまうと感じているということです。1日空くほどなのは大きいですね。

次に②です。ムダが多いと言っても、自分が関与して減らせなければムダ撲滅は難しい。ただこの質問ではどの属性の方でも7,8割以上が自分で減らせると回答しています。そのため、ムダな業務は自分が個人でコントロールできる範囲が確実に存在する、ということが読み取れます。ただし次の質問でじゃあどれぐらい減らせるか、ということでこちらは10%程度。関係性を読み取るのは難しいですが、①の質問でムダな業務の割合が20%あり、②の質問で自身の時間をどれぐらい減らせるかで10%。ムダと認識している業務の内、自分の時間は半分程度減らせる、という感じでしょうか。おそらく残り半分は取引先や上司、周辺部署との関係性ですぐにはムダを撲滅できない、ということかと推測されます。

最後に③。では具体的にどんな業務なのか。上位3業務を列挙。若干の違いはありますが、アナログな業務。DXが叫ばれていますが、まだまだ紙でやらざるを得ない業務が多いのだと感じます。もしくは、システムはあるものの十分な機能がないために、狭間で手作業で行っている可能性もあります。そして必要性を感じない、わざわざ面倒なやり方、の二つ。こちらは組織長と就業者が挙げていますが、これは業務の実施者と依頼者で認識が異なることがあるかと。実施者が作る手間を依頼側が把握していない、依頼側は自分で作らないので手間を感じず不要でも惰性で頼んでしまう→依頼側がムダと感じていない/面倒なやり方と感じていない→無くならない、という繋がりになっていると思われます。

こうしてみると、業務の自動化や就業率の話も重要ですが、ムダ撲滅の話も十分に効果がありそうなテーマということがわかりました。労働需給というマクロの話ではなく、効率化という観点で見ると、まずはムダな業務を無くしてから自動化などに取り掛かるべきだと思っています。いきなりDXの話にいかずに、是非ムダ撲滅から始めましょう。