ブログ - 企業変革 データ分析 業績改善 株式会社霧海風

Blogブログ
2025-6-6 戦略 統計と分析

サンプリングの罠

データに基づく意思決定は、現代の経営に欠かせません。事業戦略、市場分析、人事制度──あらゆる場面で統計が活用されています。しかし、どれほど精緻に見える統計データであっても、それが必ずしも「真実」を示しているとは限りません。そこには、“サンプリングの罠”という見えない落とし穴が潜んでいます。本稿では、意思決定者が陥りやすい統計の誤解と、見落とされがちなバイアスについて解説します。


偏ったサンプルは、偏った結論を生む

統計の基本は、母集団(全体)の一部であるサンプル(標本)から全体を推定することにあります。しかし、このサンプルが偏っていれば、どれほど立派な数式を使っても正しい推定にはなりません。たとえば、ある大学の卒業生の平均年収を調査する場合。実際に回答してくれるのは、自身のキャリアに自信があり、学校への帰属意識が高い層が中心です。結果、実際の卒業生の分布よりも高年収側に大きく偏った数字が「平均」として報告されることがあります。また、インターネットを用いた調査では、そもそも「ネットを使える・使う人」しか回答しません。高齢者やITリテラシーの低い層は除外されるため、調査対象が若年層や都市部に偏りがちです。

人は「嘘をつく」生き物である

さらにやっかいなのは、人が「自分をよく見せたい」という本能から、無意識のうちに事実を歪めて答える点です。ある雑誌の読者アンケートでは、「読んでいる雑誌」として知的な総合誌が数多く挙げられました。しかし実際の販売部数では、娯楽性の強い週刊誌が圧倒的に上位でした。人は「こうありたい自分」や「こう見られたい自分」を反映した回答をしがちなのです。このような“上品ぶった嘘”は、調査を見た目以上に難しくします。数字は整っていても、実態を正しく反映していない──そんな統計は数多く存在します。

質問者の属性でも変わる

興味深い研究があります。アメリカで行われた調査で、「もし日本がアメリカを占領したら、黒人差別は今より少なくなると思うか?」という質問に対して、質問者が黒人の場合と白人の場合で、回答が大きく異なったのです。黒人が質問した場合、「差別が少なくなる」と答えた人は9%。一方、白人が質問した場合は、わずか2%。これは、相手を喜ばせたい、印象よく答えたいという人間の心理が働いた結果です。つまり、「誰が質問するか」によっても、得られる統計結果は変わってしまいます。

原因がわからなくても、偏りはあるものと考える

1936年、アメリカ大統領選挙の際、『リテラリー・ダイジェスト』誌は200万人以上を対象に世論調査を行い、共和党候補の圧勝を予測しました。しかし、実際に勝ったのは民主党のルーズベルトでした。なぜ外れたのか?同誌が調査対象としたのは、電話帳や雑誌購読者名簿。つまり、当時の富裕層が中心だったのです。結果、共和党寄りの層に偏ったデータを「世論」として誤認したのです。重要なのは、偏りの「明確な原因」が特定できない場合でも、どこかに偏りが存在する可能性があれば、調査結果は常に疑ってかかるべきだということです。

数字を「読む」力こそが重要

私たちは往々にして、整った数字に安心感を覚えます。「平均値」や「満足度○○%」といった数値が示されると、ついそれを鵜呑みにしてしまいがちです。しかし、それらはあくまで「サンプルに基づく推定値」に過ぎません。そこに偏りや虚偽、感情が混じっていれば、見えている数字は「現実の姿」ではなく「歪んだ鏡像」になってしまいます。霧海風では、こうした統計的なバイアスを見抜く視点を重視し、単なる「数字」ではなく、その背後にある人間心理や構造的偏りを含めて分析することを信条としています。意思決定に役立つ「生きたデータ」を使うには、数字そのものよりも、それをどう読み解くかが問われているのです。

同じカテゴリーの記事