市場の変化が激しく、過去の成功パターンが通用しにくくなっている時代です。新規事業、業務改革、DX、人材スキルポートフォリオ設計など、企業が取り組むプロジェクトは増え続ける一方、経営資源には限りがあります。何に投資し、何を見送るべきかの判断が求められるなかで、「構想を判断できる粒度まで言語化する力」が以前よりも重要になっています。場当たり的な提案や概念論だけでは意思決定は動きません。だからこそ今、企画書が注目されています。企画の意義・実行方法・期待効果を整理し、判断しやすい形で提示できる企業や人材が、組織を前へ動かせる存在となっています。今回は企画書とは何かを整理しつつ、社内外の議論で通り易くなる企画書の書き方を見ていきましょう。
1)企画書とは
企画書は「実現したい新しいアイデアや構想を実現させるための計画が書かれた資料」です。単なるアイデアメモではなく、目的・解決策・実行計画・期待効果などを整理し、ビジネスとして成立するかを検討するための材料となります。社内外の意思決定を促し、合意形成を進めるための道具と捉えると分かりやすいです。計画書は実施することが決まった後で作る具体的なもので、企画書は実施するかどうかを決めるためのもので計画書よりかは粗い、という位置づけです。提案書は更に手前の段階のイメ―ジです。
2)企画書の重要性
どれだけ優れた技術やリソースを持っていても、活かすための「企画」が無ければ成果は生まれません。市場の変化が激しい今、企業が成長を維持するうえで必要なのは「正しい戦場を選ぶ力」と「勝ち筋の仮説を描く力」です。企画書はその両方を担います。企画書には組織を動かす力が求められます。関係者の目線を揃えるためには、具体的に言語化した共通の認識物が必要になってきます。
3)良い企画書
良い企画書には主に3つの特徴があります。
➀課題を正確に定義している
課題は何なのか、が曖昧だと、どれだけ魅力的な解決策や提案であっても企画書として成立しません。
➁論理的な筋道が通っている
「なぜそれを行うべきなのか」「なぜその方法が妥当なのか」などが明確に示されていると、読み手は判断しやすくなります。
➂実行と成果のイメージが持てる
行動リスト・スケジュール・期待効果などが示されていることで、成果のイメージが具体的になり、価値を評価することができます。企画書は単に「斬新さ」を求めるよりも、地に足のついた「説得力」があるほうが好ましいです。
4)企画書の構成
一般的に、以下の流れで整理すると必要な要素が満たされつつ、読み手が理解しやすくなります。
①背景
なぜこの企画を検討/実施するのかを示す部分。市場環境や社内事情などの文脈を整理します。
②目的
達成したい状態を明確に示す部分。「何を実現したいのか」を一言で言える形にします。
③現状と課題
現状の問題点・非効率・阻害要因を整理します。どこに“痛み”があるのかを明確にします。
④解決策
課題に対してどのように解決するのかを示す部分。方法論・方向性・全体像をまとめます。
⑤アプローチ
解決策をどのような手順で実行するかを分解して示します。ステップやプロセスを具体化します。
⑥効果
施策を実行したときに得られる成果を示します。定量効果と定性効果の両方を整理します。
⑦スケジュール
いつ何を実施するのかを時系列で整理します。意思決定者が実行イメージを持てる形にします。
⑧費用
必要となるコストを明確にします。費用対効果を判断する材料になる部分です。
⑨体制
誰が関わり、どの役割を担うのかを示します。責任範囲と意思決定の流れを明確にします。
⑩リスク
実行にあたり想定されるリスクと、その回避策・軽減策を示します。計画の実行可能性を裏付けます。
5)注意点
企画書づくりで誤りが多いポイントを挙げると以下が代表的です。
■解決策ありきで書き始めてしまう
課題に対して解決策があるのに、解決策から企画書を書いてしまうケース。生成AIを用いたいという解決策ありきで企画書を書く、ということにならないようにします。
■市場・競合・顧客等の他者視点のリサーチが薄い
自分や自組織だけの都合で考えてしまい、他社の調査や分析や考察が薄いケース。競合との差別化だったり、社内の他部署との連携を軽視しないことです。
■効果の根拠を示さず希望で記載してしまう
根拠が曖昧で、効果が希望的観測になってしまうケースです。今までの事例や現場での感覚を踏まえながら細かく効果を積み上げていくことが必要です。
■リスクの記述を避ける
将来起こり得る障害となるリスクを度外視しているケースです。提携ができないかも、システムベンダーから値上げを要求されるかも、などのリスクを挙げておくことが必要です。
■「情報量=説得力」と誤解する
意思決定者が判断できる情報をできるだけ多く盛り込もう、と大量の情報を載せてしまうケースです。本質的で必要な情報だけ載せることが重要です。
6)まとめ
企画書は書くこと自体が目的ではなく、実現したい構想を具体化/言語化し、それをもって意思決定者を動かすことが目的です。具体的でイメージが湧きなおかつ成果が出る、と判断できるときのみGoサインを出してもらえます。企画書といった大仰なものでなくとも、日々の業務で相手を説得するときには、少なからず企画書の要素が必要になってきます。企画書を書く時、及び小さなことを組織で押し進めるときに企画書の要素や注意点を思い出して作ってみてください。
弊社の企業へのコンサル支援事例では、企画書の構成要素を網羅しているものの厳格にフレームワーク化してしまったが故に現場での活用が為されないケースがありました。企画系の部署の方には作成が簡単であっても、実際に現業部門で用いるには重すぎたのです。企画書を用いる金額や部署にもよりますが、ある程度簡略化したほうが良い場合もあります。





